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11月24日 異なる感覚を連合する視床回路(11月13日 Science 掲載論文)

2020年11月24日

先日、東大の医学部の学生さんと、東京芸大の学生さんたちが集まって、脳科学と芸術の交流を深められないか話し合う、エキサイティングなzoomミーティングに参加する機会を得て、新しい知的な刺激を受けることができた。その日のテーマは、デザイン科の学生さんが提起した「脳で触れるか?」、もう少し解題すると「映像で触覚を刺激できるか?」だった。その日は講義をするというより、まず提案の趣旨を聞くということだったので、断片的にしか私の考えを伝えることができなかったが、自分でもこの問題についてはまとめてみたいと、その時考えた。

脳科学を少しでもかじっておれば、彼女の提起した問題は、皮質の感覚野と視床の関係だとわかる。この会に参加している芸大の学生さんも、視床が鍵だというのは自習しており、感銘を受けた。視床は感覚野から神経を受けると同時に、感覚野に神経を送ることで、感覚の刺激閾値を変化させる。さらにこの回路は、first order と higher orderに分かれ、後者は皮質の様々な層、様々な領域へと神経を送ることで、より高次の調節に関わることが最近注目されてきた。実際、higher order回路は高次機能の発達に応じて拡大し、解剖学的にも大きなシナプス端末を特徴としている。

このhigher order視床についてみなさんの参考になりそうな最近の論文を探していたら11月13日号Scienceに掲載された、フランクフルト・マックスプランク脳研究所からの論文があったので紹介することにした。タイトルは「A thalamocortical top-down circuit for associative memory (視床皮質間のトップダウン回路が連合記憶に関わる)」だ。

もちろん私も専門外で詳細を理解しているかおぼつかないが、まさに学生さんたちが視床の役割を知るためには最適の論文だと思った。

この研究で焦点を当てているのが聴覚で、皮質の聴覚野と、視床で聴覚野を受け持つ領域が研究の対象になる。まず、これまで聴覚に関わるとされているhigher order 視床(HOMG)から皮質のどの範囲に神経が出て投射しているかを調べ、聴覚野に広く勾配をもって分布していることを確認する。また、脳から切り出して光遺伝学的にHOMGを刺激すると、様々な層の介在神経、錐体神経と結合していることを確認している。

解剖学的にHOMGが視床からのシグナルを聴覚野の広い範囲に送っていることがわかったので、次に音と足に加えたショックを連合させ、その時皮質に伸びたHOMGシナプスの反応を調べ、一種の恐怖として触覚と聴覚が連合した記憶が、聴覚野の第一層への刺激として伝えられることを示している。また、この連合記憶は、HOMGの活動を止めてしまうと、成立できないことから、higher order視床領域が、記憶した様々な感覚を統合して、聴覚を変調させる過程の鍵になっていることを実験的に示している。

最後に、HOMGは、皮質での錐体神経の刺激を調節する聴覚野第1相の介在神経の作用により抑制される可能性について、介在神経が遊離する神経伝達因子の阻害や活性化実験を通して示している。すなわち、統合された記憶の情報が、局所の統合を受け持つ介在神経によりさらに調節される複雑な回路を形成していることを示している。

以上が結果で、おそらく芸大の学生さんにはまだまだわかりにくいかもしれないが、異なる感覚は視床で統合されて、個々の感覚に影響することができることを教えてくれる実験だ。おそらく、これが何かを見たとき、他の感覚が動かされる回路の基本なので、「脳で触る」ことは可能だととりあえず結論しておこう。

考えてみると、医学教育はどうしても教師からまとまった知識を詰め込む方向で進められる。その意味で、違った領域の学生さんからの問題提起を考えるこの会は生きた知識を身につけ、次世代の研究者を育てるのに重要な活動だと実感した。


  1. okazaki yoshihisa より:

    1:異なる感覚は視床で統合され、個々の感覚に影響することができる。
    2:おそらく、これが何かを見たとき、他の感覚が動かされる原因なので、「脳で触る」ことは可能だ!?
    Imp:
    “脳で触る”ユニークな発想ですね。“幻肢痛”のことを思い出しました。
    事故等で無くなった腕に痛みや触覚を感じる現象。
    ニューロンの可塑性が関与しているとの話も聞きます。
    治療法として“鏡療療法”があるようですが、“脳で触る”に通じる?

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