AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 12月5日  RNAワクチンが意外なほど強い免疫を誘導する理由(11月20日 Immunity オンライン掲載論文)

12月5日  RNAワクチンが意外なほど強い免疫を誘導する理由(11月20日 Immunity オンライン掲載論文)

2020年12月5日

私自身は当初RNAワクチンについては懐疑的だった。というのもRNAは体内ですぐに分解され持続的免疫が成立しにくく、またリポソームのほとんどが筋肉に取り込まれてしまって、うまくクラスIIが必要なヘルパー細胞への抗原提示ができないのではと考えたからだ。しかし実際使われてみると、2回注射の必要性はあるとしても、予想を遥かに超える効果が示されてきた(https://aasj.jp/news/watch/14336、最近の第3相についての報道)。

この時紹介した第1相の長期フォローアップについての報告がつい先日やはりThe New England Journal of Medicine に掲載され(図上)、

  1. 全ての人に中和抗体を誘導できるが、2回免疫プロトコルが必要なこと、
  2. 40日をピークに血中の抗体は下がり始めるが、低下の速度は予想外に遅く、119日目でも一定のレベルの抗体が見られる。
  3. 71歳以上の高齢者でも十分抗体は誘導され、長期間維持されるるが、全般に誘導される抗体価は低く、またばらつく傾向がある。

ことが示された。ほぼ4ヶ月抗体が検出されるというのはまさに予想外だ。

なぜ予想が外れたのかいろいろ調べてみると、私の勉強不足が予想の外れた原因で、以前紹介したようにRNAワクチンは長い科学的研究に裏打ちされていた(https://aasj.jp/news/watch/14336)。

この時紹介しなかったが、私の予想が全く間違っていた理由の一つは、筋肉注射したワクチンの多くがリンパ節に移行し、直接免疫系に取り込まれることを知らなかったからだ。サルを使った実験で、太腿に注射したRNAワクチンは、筋肉細胞内にトラップされるのではなく、なんと4時間後には鼠蹊部リンパ節に到達し、そこで樹状細胞などに取り込まれることが既に発表されている。

モデルナのワクチンの容量は100μgだが、この100μgのうちRNAの占める割合はどの程度だろうか、いずれにせよ全てが一つのタンパク質をコードするRNA だと考えると、驚くべき量のRNAがリンパ節に到達することになり、おそらく濾胞内の樹状細胞(Follicular dendritic cell)にも取り込まれ、そこでは抗原が長く維持される可能性がある。

この可能性を裏付けるpre-proof論文が11月20日、ペンシルバニア大学からImmunity にオンライン掲載された。タイトルは「SARS-CoV-2 mRNA vaccines foster potent antigen-specific germinal center responses associated with neutralizing antibody generation (SARS-CoV2 mRNAワクチンは中和抗体産生につながる強い抗原特異的胚中心反応を培う)」だ。

この研究は同じスパイクタンパク質(モデルナやファイザーのスパイクとは少し配列が異なる)を一般的なアジュバントと組み合わせた組換えタンパク質ワクチンと、同じタンパク質をコードするmRNAワクチンをマウスの筋肉内に注射し、その後の抗体産生とともに、支配リンパ節での細胞反応を見ている。

驚いたことに、mRNA ワクチンを注射したときだけ、7日後に記憶免疫成立の鍵になる胚中心が出現し、アジュバントの性能の問題があるにせよ、タンパク質抗原では全く胚中心が誘導できない。また、胚中心には期待通り抗原と結合するB細胞が集まっている。以上の結果は、mRNAワクチンが予想外の抗体誘導の背景に、支配リンパ節で強い抗原特異的免疫反応誘導能があることを示している。また、これを反映してタンパク質を抗原とした時と比べ、遥かに高い中和抗体が誘導されることも確認される。

しかし胚中心反応自体は1−2週をピークとしてあとは低下する。しかし、これだけ強い胚中心反応が誘導できると、次の抗原により迅速に反応できる記憶B細胞が誘導されることで、実際記憶型のB細胞はRNAワクチンを注射したときだけリンパ節に誘導できる。また、次の反応にはTヘルパー細胞も必要だが、抗ウイルス活性に優れた抗体を作るときに重要なTh1型のヘルパーT細胞誘導についてもRNA ワクチンは遥かに優れている。

他にも様々な実験が行われているが、詳細はいいだろう。要するにB細胞、T細胞あらゆる点から見て、mRNAワクチンはタンパク質そのものを抗原とする場合と比べ、遥かに優れており、これは全てワクチンが速やかにリンパ節に移行し、強い胚中心反応を誘導するためだと結論している。もちろん、タンパク質抗原でも繰り返し抗原を注射すれば胚中心反応が誘導できるし、他のタイプのワクチンの中には、同じように強い胚中心反応を早期から誘導できるものもあるだろう。ただ、最初の予想を裏切って、今回RNA ワクチンがトップランナーになった理由がよく分かった気がする。

個人的には、リンパ節での反応の鍵になるのは、注射したRNAとそれを取り込む抗原提示力のある細胞、樹状細胞、follicular dendritic cell, そしてB細胞との関係だと思うが、注射したRNAとこれらの細胞との詳しい関係が明らかになると、より優れたワクチン設計のヒントになるように感じた。いずれにせよ、今回の新型コロナウイルスに限らず、ガンワクチンを考えても、RNAワクチンが重要なモダリティ〜になったことは確かだ。


  1. okazaki yoshihisa より:

    1:B細胞、T細胞あらゆる点から見て、mRNAワクチンはタンパク質そのものを抗原とする場合と比べ、遥かに優れている。
    2:これは全てワクチンが速やかにリンパ節に移行し、強い胚中心反応を誘導するためだと結論している。
    Imp:
    ゲームチェンジャーになるかも?
    ガンワクチン療法、他の感染症への展開が楽しみです。

  2. Takuya Tamatani より:

    有用な情報発信をありがとうございます。いつも勉強させていただいています。
    今回の論文については、私も驚きました。DNAワクチンに比べても効果があるようなので、RNAであることで、TLR7を介したAdjuvant効果も効いているのではないかと思うのですが、どう思われますか?
    TLR7 agonistでⅠ型インターフェロンとTregも誘導されるので、その点でも新型コロナのワクチン(というよりAdjuvant)として期待できると思うのですが。

    1. nishikawa より:

      RNAに強い自然免疫誘導能があることはよくわかっています。当然TLR7も関わります。

  3. KEISUKE ITAHASHI より:

    mRNAワクチンの有効性はわかりました。ただIgA抗体は誘導しないので粘膜感染は減らない、つまりワクチン接種が普遍化していく過程で、感染率は下がらないけれど、死亡率、重症率の低下が期待できるということかと思いますが如何ですか?

okazaki yoshihisa へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*