残念ながらまだその姿を見たことはないが、ボノボは類人猿の中で最も平和的で、人間の利他的行動や、道徳的な行動のルーツを探るために研究されている。山を歩いてボノボを探すほどの体力はもう残っていないが、是非コンゴに行ってサンクチュアリーで保護されているボノボを見てみたいと願っている。
今日紹介するスイスNeuchâtel大学からの論文は、ボノボ同士が示す、共同作業の質を調べた研究で12月18日号のScience Advanceに掲載された。タイトルは「Bonobos engage in joint commitment(ボノボは共同のコミットメントを行える)」だ。
タイトルにあるjoint commitmentはなかなか訳しにくい。例えば目的のために協力し合うことは多くの動物で見ることができる。時に、はっきりとした分業体制が見られる場合もある。しかし、ほとんどの場合、行動を支配する自発的脳のアルゴリズムにより、協力が自然に成立するケースが多く、私たちが協力を考える時に想定する、コミュニケーション、責任感、自由な役割設定などは全く存在しない。
タイトルのJoint Commitmentを行動学的に定義すると、1)目的と実現に向けたプランの共有、2)協同中の意図についての把握、3)コミュニケーション能力、そして4)自分の責任についての理解、の全てが備わった協力関係といえる。人間では3歳児ぐらいから明確なjoint commitmentが見られるのだが、他の類人猿に存在するかどうかは議論が分かれている。
この様な協力関係の質についての研究は、トマセロさんたちの研究が有名で、このHPにも言語の発達について述べた時(https://aasj.jp/news/lifescience-current/10954)、獲物を順番に分け合う能力について調べた「One for you, one for me: human unique turn-taking skills(Melis et al, Psychological Science, 27:987, 2016 : http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177)という論文を紹介したが、この様な能力をより自然な状態で調べるのは簡単ではない。
この研究ではフランス・ロマーニュにある霊長類の自然動物公園で飼われているボノボ同士の毛繕いを、joint commitmentと仮定し、これが本当にjoint commitmentかどうかを、様々な方法で確かめている。
まず、片方、あるいは両方を食べ物で引き付けてcommitmentから中座させた時、また同じcommitment に戻るか、離れる時、戻る時どの様なコミュニケーションをとるかなどを調べ、
- 中座しても同じcommitmentに戻る確率は9割近く、それぞれ意図を共有している。
- 片方だけ中座した場合、特に毛繕いしている側は、自分の責任を理解した様に、様々なコミュニケーションのそぶりを見せる。
- Commitment再開後の役割は、中断された時と同じ役割につく。
- ランクが離れた間柄ほど、コミュニケーション行動は多く見られるが、同じcommitmentに戻る確率はランクには関係ない。
などなど、基本的には最初に述べた様々な条件を全て備えたCommitmentであると結論している。
論文を読むだけでは本当かなと思うところもあるが、この様な動物行動観察は、観察者にははっきり分かるがなかなか数値として表現できないことも多いと思う。これを思い入れと取るか、あるいは信用するかは読み手の問題だと思うが、私は信用する側に回る。
ほとんどの場合、行動を支配する自発的脳のアルゴリズムにより、協力が自然に成立するケースが多く、私たちが想定する、コミュニケーション、責任感、自由な役割設定などは全く存在しない。
Imp:
生物の群れによる“共同作業”の創発!!
“ラムゼー理論”:『「パーティで6人が集まれば、お互いが知り合いである3人組か、お互いに知らない3人組、のいずれかが必ず存在する』を連想しました。
6匹集まれば、“何らかのチーム”が必然的に立ち現れる!?
共同作業の創発、自然の摂理のであって我々が考えるような“高尚な精神・道徳”に根ざしたものではないかもしれない???
ラムゼー理論。。。不思議です。。。。