今週目にしたCovid-19に関する論文の中に、ウイルスに対する抗体の糖鎖修飾とFc受容体の一つ、FGCR3についての論文が2報あったので、連続的に紹介する。以前Ravechのグループによる論文を紹介したが、抗体の活性はFc部分で決まる。特に、Fcγ受容体3aはIgGの糖鎖修飾でフコシル化が行われると結合性が落ちることが知られている。逆に言うと、フコシル化を受けていない抗体に対して強く結合して、抗体による細胞障害を助けることから、抗体からフコースを除去してよりガン細胞を殺しやすい抗体作成技術を謳う多くのベンチャー企業ができている。
今日紹介する抗体の化学研究黎明期のLandsteinerの名前がついたオランダの研究所からの論文は新型コロナウイルス(CoV2)対する抗体のフコシル化の程度と重症度との相関を調べ、重症化している人ではフコシル化されていない抗体の比率が高まっていることを示した研究で、12月23日Scienceにオンライン掲載された。タイトルは「Afucosylated IgG characterizes enveloped viral response and correlates with COVID-19 severity (フコシル化されていないIgGはエンベロープウイルスに対する反応で現れるがCovid-19の重症度と相関している)」だ。
元々アロの赤血球のような膜抗原に対する抗体はフコシル化されにくいことが知られている。この研究ではまず肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、パルボウイルス、おたふく風邪ウイルスなどに対する抗体の糖鎖修飾を調べ、エンベロープウイルス感染ではフコシル化の低い抗体が出やすいことを発見する。これは、エンベロープウイルスの場合、ホストの細胞表面にもウイルス構造タンパク質が発現するため、赤血球に対する抗体反応と同じようなことが起こったと考えられる。
当然エンベロープを持つウイルスCoV2でも同じで、構造蛋白のスパイクに対する抗体ではフコシル化が低下しているケースが存在する。一方、ホストの細胞表面に発現しないNタンパク質に対する抗体では正常にフコシル化されている。
驚くのは、スパイクに対する抗体で見た時、フコシル化が低下している抗体は急性呼吸器逼迫症を発症した重症例で多く、軽症で止まった患者さんでは最初からフコシル化の程度が高い。他の糖鎖修飾でもARDS発症との相関が見られるが、この場合Nタンパク質とスパイクに対する反応ではほとんど差がない。
最後にフコシル化抗体と重症化の指標であるIL-6とCRPレベルを調べると、フコシル化の程度と炎症の指標が逆相関していることを確認している。
結果は以上で、もちろん臨床データなのでyes or noがはっきりしない場合もある。ただ、最後の炎症とフコシル化の程度が逆相関しているデータは、程度の差はあれかなりはっきりしているように思った。
これらの結果から、この論文ではウイルス感染したホストの細胞表面に発現した抗原に免疫系が触れる結果、フコシル化が低下した細胞を殺す能力が高い抗体が誘導される。通常、これはウイルス感染細胞を除去するには良い効果を示すのだが、ある域値を超えると、感染細胞に最初から強い炎症が誘導され、重症化すると言うシナリオを提案している。元々糖鎖修飾は年齢とともに低下することから、高齢者が重症化しやすいことの一つの説明にもなる、説得力のある仮説だと思う。
現在膨大な数の患者さんの血清が集まり、またこれから様々なモダリティーのワクチン接種を受けた人たちの血清が集まるだろう。この検査は基本的に血清さえ存在すればわかるので、今後さらに多くのサンプルで、自然感染と人工免疫の差も含めてフコシル化の違いを見ていくことで、ウイルスやガンに対する新しい抗体治療の糸口が得られるような気がする。
自然感染と人工免疫の差も含めてフコシル化の違いを見ていくことで、ウイルスやガンに対する新しい抗体治療の糸口が得られるような気がする。
Imp:
フコシル化
生体免疫反応を決める“新たなパラメーター”が、また一つ出現。
一体、いくつのパラメ-ターがあるのだろうか?生体には。。。。