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12月27日 妊娠後期フコシル化されていないIgGは選択的に胎児に輸送されるようになる(12月15日 Cell オンライン掲載論文)

2020年12月27日

昨日、エンベロープ型ウイルスの構造タンパク質のうち、私たちの細胞膜に発現するスパイク分子に対する抗体は、まだよくわからないメカニズムで抗体のフコシル化が低下すること、その結果FCγ受容体3a(FCGR3A)に対する抗体の結合性が何十倍も上昇し、ウイルス感染細胞を抗体により除去する確率は高まること、しかしこれは諸刃の刃で、フコシル化されていない抗体が強い炎症を誘導し重症化を誘導することを示した論文を紹介した。

この結果を頭に読むと、今日紹介するハーバード大学からの論文もわかりやすい。論文のタイトルは「Compromised SARS-CoV-2-specific placental antibody transfer(抗体の胎盤通過はSARS-CoV-2で特異的に損なわれている)」で、12月15日Cell に掲載が決まったばかりだ。

Covid-19は子供に感染しにくく、感染してもまず重症化しない。ただ、新生児、乳児についてはこのルールが当てはまらないことが知られている。わが国では少ないようだが、欧米では1歳未満の子供が感染すると、重症化しやすく、川崎病様の全身血管炎に発展することが注目されている。

結論から言ってしまうと、この論文はフコシル化されていない抗体が選択的に胎児に輸送され、これが生後感染したときに重症化しやすい要因になりうることを示している。糖鎖修飾能は高齢化とともに低下し、一方糖鎖修飾を受けていない抗体が胎児に移行しやすいとすると、高齢者と1歳未満で重症化が起こりやすいことも説明がつくと言うわけだ。

ただこの研究ではフコシル化が低下すると重症化するかどうかについては検討していない。新生児が重症化しやすい原因の一つが、母親から胎児に移行する抗体にあると考えて、CoV2に感染した妊婦さんの血中抗体と、臍帯血中の抗体を比べ、その違いを丹念に調べている。

結果をまとめると、

  • 妊娠後期では、スパイクに対する抗体は、Nタンパク質に対する抗体と比べると、胎児に移行しにくい。ワクチンで誘導されたインフルエンザHAや百日咳菌に対する抗体は、正常に胎児に移行する。
  • 移行する抗体の機能を調べると、補体結合能が高く、白血球活性化を誘導する抗体は移行しにくい。
  • 上の結果から、胎児への移行の違いは糖鎖修飾にあると考えられるが、母体と臍帯血の抗体の糖鎖を比べると、胎児にはフコシル化の程度が低い抗体が選択的に移行し、他の糖鎖修飾抗体が移行できていない。
  • この原因を探ると、CoV2感染により、フコシル化されていない抗体と結合力の高いFCGR3aの発現が胎盤で上昇している。もともと抗体移行は胎盤で発現するFcRnによって媒介されるが、感染母体ではFCGR3aとFcRnが共発現しており、これがFCGR3aへの結合性の高いフコシル化されていない抗体の選択的移行に関わる。

実際には、他のタイプの糖鎖修飾の結果など飛ばして紹介しているが、以上の結果からこのグループは、補体結合能の高い抗体が胎児に移行しない結果、新生児は重症化しやすいと結論している。ただ、昨日紹介したLandsteiner研究所からの論文を合わせると、フコシル化されていない抗体が新生児が重症化しやすい要因になる可能性も考えられる。

毎日論文を読んでいると、Covid-19の医学研究が世界の津々浦々で進んでいることがわかる。この知識財産は圧倒的で、特に実験動物だけでなく人間についてもリアルタイムで研究が進んでいることの結果だろう。おそらく、これをきっかけに21世紀の医学はさらに人間を対象にした科学へと舵を切るだろう。そして、さらに大きな実験、1年にも満たないうちに何億という人に同じワクチンが接種されると言う壮大な試みが進む。ここで得られる情報は、最初の免疫をコントロールしていると言う点で、計り知れない。この試みからどれほど情報を引き出せるのか、わが国の科学が試されている。


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