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1月11日 志賀毒素による炎症の抑制(11月27日 Science Immunology オンライン掲載論文)

2021年1月11日
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以前紹介したCovid-19による呼吸不全を肺移植で治療した3例(https://aasj.jp/news/watch/14541)では、ウイルスは抗体やレムデシビルにより完全にコントロールされているのに呼吸不全は進行してしまっている。すなわち、ウイルス性の急性呼吸逼迫症(ARDS)がどこかの時点で内因性の炎症を誘導して間質肺炎や全身の血管炎が進むことになる。ただ、これをサイトカインストームという一言で語ってしまうと、分かった気にはなっても、本当の理解にはつながらない。というのも、現在知られている炎症の経路はあまりに複雑で、外因性ではじまっても、すぐに自己組織型の内因性の炎症へ移行する。その上、このスイッチはそれぞれの病原体で入り方が異なる。というのも、ウイルス自体、内因性に細胞が持っている炎症システムをいかに抑えるか、多様なメカニズムを持っている。新型コロナウイルスの場合、リボゾームでの翻訳抑制、スプライシングの阻害、タンパク質輸送の阻害で最初のインターフェロンなどの合成阻害、さらに外側からのインターフェロン刺激も、シグナルの抑制を介して徹底的に逃れる仕組みを持っている。すなわち普通考えられない様な自然免疫システムが作られたところに、これで抑制できない炎症シグナルだけが過剰に入ってくることになる。病原体ごとに自律的炎症スイッチの入り方が違っているとすると、この過程をなんとか理解して論理的に重症化を防ぎたいと思うのは当然だ。

そんなことを考えながら、異なる病原体がどの様に自然免疫を抑えようとしているのか調べていたら、比較的最近Science Immunologyにオンライン出版された志賀毒素という懐かしい分子の機能を調べた論文に出会った。タイトルは「Shiga toxin suppresses noncanonical inflammasome responses to cytosolic LPS(細胞質内へ移行したLPSによる非典型的インフラマトゾーム形成を志賀毒素が抑える)」だ。

ウイルスが様々な自然免疫抑制機能を持っていることは、Covid-19が現れる前から理解していたし、このブログでも紹介してきたが、細菌が同じ様な機能を持っていることはあまり考えたことはなかった。

今日紹介する論文は、O-157などの出血性大腸炎の原因菌のトキシンについて研究しているグループの様だ。ご存知の様に、O-157などはファージによる水平遺伝子伝搬を通して、志賀潔博士によって発見された赤痢菌の志賀毒素遺伝子を受け継ぎ、これが激烈な症状の元になっている。志賀毒素(Stx)はグロボトリアオシルセラミドと呼ばれる細胞表面の糖鎖に結合したあと、細胞質内でリボゾームタンパク質の機能を阻害することで、タンパク質合成を阻害することが知られている。メカニズムは違うが、細胞のタンパク合成をまず叩くというのは細菌やウイルスにとっての戦略の様だ。

ただ、これだけだとStxに触れた細胞が死んで出血するという話で終わるのだが、この研究はStxがマクロファージの様な細菌に対する防御機構に対しては、LPSを検出できなくして自らを防御することを明らかにしている。

長くなるので詳細を省いて結論だけをまとめてみよう。

細菌感染に対する重要な自然免疫系はLPSなどの細菌由来エンドトキシンによってスイッチが入る自然免疫系で、この結果NFkb刺激によるTNFやIL-6などのサイトカイン放出、カスパーゼによる細胞死が起こる。

面白いことに、LPSは細胞表面のTLR4に検知されて炎症を起こすだけでなく、細胞質に入って、インフラマゾームと呼ばれる他の炎症経路を介するIL-1βなどのサイトカイン活性化も誘導することが知られているが、Stxはこの経路だけを選択的に抑制する。

そのメカニズムを探ると、インフラマゾームのカスパーゼ11が活性化され、それによりGasdermin Dが分解される経路を阻害することを突き止めている。残念ながら詳細な分子機能は分かっていないが、Gasderminは血液細胞で核酸を分解せずに外に排出するNetosisに関わることを考えると、不思議な炎症の抑え方をしていることがわかる。

研究は現象論だけで、少し物足りないのだが、これほど特異的な炎症の押さえ方をするということは、赤痢菌や大腸菌にとって何か生存に有利な意味があるはずだと思う。

この様にウイルスから細菌までそれぞれが私たちの免疫機能に対応するため進化させてきた抗免疫機能を、ウイルスや細菌の気持ちになって理解できれば、必ず2次的、3次的炎症の特異性を、サイトカインストームという総称ではなく個別に理解できるできる様になるだろう。

しかしこれとは別に、志賀毒素も使い様によっては、炎症制御に使えるかもしれないとも思った。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ウイルスから細菌まで免疫機能に対応するため進化させてきた抗免疫機能を、ウイルスや細菌の気持ちになって理解できれば、
    必ず2次的、3次的炎症の特異性を、サイトカインストームという総称ではなく個別に理解できる.
    Imp:
    現代はまだまだ解明途上の段階。。。
    未来、分子アルゴリズムの言語で語られると信じています。

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