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1月16日 Glutaminaseは老化研究のブレークスルーになるか(1月15日号 Science 掲載論文)

2021年1月16日
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抗老化というと、老化細胞の生成を抑えて達成するものと一般には理解され、そのための様々なサプリメントが世に出回っている。しかし、これまで何度も紹介した様に(https://aasj.jp/news/watch/3057)、老化が始まった細胞を積極的に殺してしまうsenolysisが、個体を若返らせるためには最も有効な方法だと思っている。というのも、この方法で肺線維症や腎硬化症など、老化が早く進行してしまう病気を抑えることが証明されている。とはいえ、現在senolysisを誘導する方法としてはダサニチブの様なリン酸化阻害剤や、免疫システムを用いた細胞除去が必要で、どれも気軽に使える方法ではない。

今日は久しぶりに我が国からの論文、東大医科研の中西真さん達が1月15日号のScienceに発表した論文を紹介する。senolysisをグルタミン代謝を抑えることで実現できることを示した論文で、抗老化を実現する手法としては画期的な研究だと思う。タイトルは「Senolysis by glutaminolysis inhibition ameliorates various age-associated disorders(グルタミン分解阻害によるsenolysisは様々な老化に伴う異常を軽減する)」だ。

この研究ではp53を活性化して老化を誘導した線維芽細胞の遺伝子発現と遺伝子ノックダウン解析から、細胞老化で細胞内のアシドーシスが起こると、mRNAの安定化を通してglutaminase1(GLS)の発現が高まること、また老化細胞が生存するためにはGLSが必須で、酵素活性を阻害すると老化細胞の細胞死を誘導できることを発見する。すなわち、senolysisをグルタミン代謝系の操作で実現できることが明らかになった。

そして、グルタミン分解抑制による細胞死のメカニズムを様々な角度から調べ、最終的に酸性に傾く細胞質のpHを中和するためにグルタミン分解が行われると結論している。また老化細胞はリソゾーム膜が障害されることでアシドーシスに陥りやすく、またアシドーシスが続くとミトコンドリア膜上のPTPが開いて細胞死が誘導されるため、これを防ごうとglutaminase活性が高まり、アシドーシスを中和して細胞をなんとか生存させていることを示している。慢性炎症も含め、様々な細胞ストレスが老化につながることを十分納得させるシナリオだと思う。

最後に、GLNの発現が、確かにマウス体内の老化細胞で高く、阻害剤を老化マウスに投与する実験を行い、腎硬化症や肺線維症を改善するなど、様々な老化に関連する異常を防ぐとともに、いわゆる慢性炎症をおさえる効果があることを示している。

結果は以上で、senolysisを代謝調節から実現できることを示した点で画期的だと思う。グルタミン代謝は、ガン制圧も含めて様々な方面で研究されており、多くの阻害剤も開発されている。また、アシドーシスとそれによるミトコンドリア膜PTPを介する細胞死という下流の経路も明らかにしている点も、今後新しい抗老化剤開発に寄与する様に感じる。いずれにせよ、senolysisをより身近に感じさせてくれる優れた研究だと感心した。

ずいぶん昔になるが中西さんが名古屋市立大学医学部に在籍の頃「DNAメチル化と細胞周期:プロの仕事」と紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/489)。今回もプロの仕事が発揮されたと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:細胞老化⇒細胞内アシドーシスが起こる⇒mRNA安定化⇒glutaminase1(GLS)の発現が高まる。
    2:老化細胞が生存する⇒GLSが必須⇒酵素活性を阻害すると老化細胞の細胞死を誘導できる
    3:senolysisをグルタミン代謝系の操作で実現できることが明らかにした。
    Imp:
    このコーナーで日本人の業績が紹介されるのは本当に珍しいです。
    それだけでもimpactの大きさが理解できます。

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