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2月6日 膵臓ガン発生に関わる組織障害の分子メカニズム(2月3日  Nature オンライン掲載論文)

2021年2月6日

膵臓ガンは現在もなお治療が難しいガンの一つだが、発ガンに関わる遺伝子についていえば、お手本の様なガンで、ほとんどがrasのgain of function変異をドライバーとして、p53のloss of function変異によりそれがプロモートされている。ただ、なぜ膵臓ガンだけこれほど予後が悪いのかほとんど理解できていない。

今日紹介するスローン・ケッタリングガン研究センターからの論文は、発ガン時に組織障害によるエピジェネティック変化が重なることが、膵臓ガンをここまで悪性にしている一つの要因である可能性について追求した研究で2月3日Natureにオンライン位掲載された。タイトルは「A gene–environment-induced epigenetic program initiates tumorigenesis(環境により誘導されるエピジェネティックプログラムの一つの遺伝子が発ガンを開始させる)」だ。

この研究では最初から膵臓の腺房細胞のエピジェネティック状態が組織障害によって変化し、これがras遺伝子変異と協調して膵臓ガンを発生させると仮説を立て、K-ras変異と組織障害を様々に組み合わせて変化させた膵臓の上皮細胞の染色体構造を、開いた染色体構造を調べるATAC-seqを用いて調べている。

結果だが、膵臓炎を誘導するcaerulein投与で、腺房細胞のクロマチンは大きく変化するが、これは膵臓ガンの染色体の示す染色体変化とは全く異なる。しかし、K-ras の発現と合わさると、ほとんど膵臓ガンに近くなるので、膵臓ガン発生には組織障害によるエピジェネティックな変化が大きく寄与しているという結論だ。

次にこうして誘導されるクロマチン変化の性質を比べる目的で、上皮細胞特異的に開いたクロマチンに結合してエンハンサーの効果を助けるBRD4をノックアウトしたときに起こる変化と比較し、組織障害やK-rasで誘導される染色体変化が、正常のプログラムがBRD4ノックアウトにより障害されて起こる染色体変化とは全く異なることを確認している。

以上の結果は、組織障害によりクロマチン構造の変化が起こったとき、ras変異が入ると、これがさらに新しいクロマチン変化を誘導して、通常なら元に戻る変化をガン型のクロマチンへ引っ張っていくことを示唆している。例えば、新しいクロマチン変化で発現した転写因子が、ras変異によるクロマチン変化で、普段なら結合できない場所に結合して、足し算以上の変化を誘導するといったイメージだ。実際、発現した遺伝子の調節領域を調べ、この過程が実際に起こっていることを確認している。また、single cell RNA seqを用いて、細胞レベルで転写のリプログラムが進んでいることを確認している。

最後に組織障害とK-rasをつなぐ細胞外因子を探索して、膵臓ガンで発現が高く、さらに組織障害でも誘導されるサイトカインとしてIL33を特定している。そして、K-ras発ガン実験系で、IL33が障害を誘導する代わりになることを実験的に明らかにしている。

話はこれだけだが、組織障害を媒介するサイトカインが発見されたのは重要だと思う。また、組織障害によるエピジェネティック変化がこれほど重要だとすると、K-ras/p53変異が揃った膵臓ガンと例えば直腸ガンのクロマチン状態を調べることは、膵臓ガンの悪性度を知るための重要なヒントになる様な気がする。もちろん細胞での発ガンへのIL33の効果も知りたい。さらに、周りの組織も障害を繰り返すことで当然変化することから、膵臓ガンで線維芽細胞反応が強い理由も、同じ様なクロマチン変化が起こった結果かもしれない。膵臓ガン研究の将来を開く発見になる様な気がする。

この論文を読むと、エピジェネティック変化の研究も道具が揃ってかなり精度が高くなってきた。ぜひ膵臓ガンの新しい治療戦略に繋がって欲しいと期待している。


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