顎口類の進化に伴って新たに発生する頭部組織は、胚発生初期にまず外胚葉、そして頭部神経管細胞へと分化したあと発生する頭部神経堤細胞に由来する。すなわち頭部神経堤細胞は初期発生での分化制限から解放される必要がある。ずいぶん昔紹介したが、アフリカツメガエルでは、初期発生で通常失われる多能性幹細胞のプログラムの発現を維持できる細胞が存在し、その末裔が頭部神経堤細胞に分化して多能性を発揮するという可能性が提案された(https://aasj.jp/news/watch/3363)。ただ、現役時代、一度多能性プログラムが消えた細胞から多能性マウス神経堤細胞分化することを示した本人としては、もし彼らの解釈が正しければ、マウスはツメガエルと異なる発生様式をとるはずだと思っていた。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文はマウス頭部神経堤細胞の多能性は、新たに発現したOct4などの多能性プログラムが発現することで獲得されることを示した研究で、マウスがアフリカツメガエルとは異なることを示して安心させてくれた。タイトルは「Reactivation of the pluripotency program precedes formation of the cranial neural crest(多能性のプログラムの再活性化が頭部神経堤の形成に先んじて起こる)」だ。
この研究は様々な発生時期の頭部細胞をsingle cell RNA seqで解析、4体節期に神経堤細胞へ分化前のWnt1陽性細胞で多能性因子Oct4、Sox2、Nanogが発現し、神経管から分離する過程で発現が消失することを発見する。またこの時期にOct4を発現する細胞を標識する実験を行い、これらが期待通り頭や鰓弓の細胞へと分化することを示している。
次に、この時期のOct4遺伝子をノックアウトする実験を行い、神経堤から神経への分化は正常に起こるが、顔部組織形成が強く抑制されることを確認し、多能性プログラムが、外胚葉以外の分化能の獲得に必須であることを示している。
最後に、ATAC-seqなどを用いて、これらの多能性プログラムが神経管細胞に及ぼすエピジェネティックな変化を調べ、主にホメオボックス遺伝子が結合する遺伝子のクロマチン構造が変化する体幹部神経堤細胞と異なり、Otx2、Soxなどの神経上皮プログラムに反応する遺伝子とともに、エピブラストと同じ多能性のプログラムに反応する遺伝子のクロマチンが開いていることを明らかにしている。
以上、頭部神経堤では新たにエピブラストと同じ多能性のプログラムが再活性化されることで、外胚葉に新しい分化能が付与されるというシナリオが明らかになった。
どの様に再活性化が部位特異的に起こるのかなど、まだまだわからない点も多いが、個人的には「なるほどなるほど」とうなずいて喜んでいる。
頭部神経堤では新たにエピブラストと同じ多能性のプログラムが再活性化され、外胚葉に新しい分化能が付与されることが明らかに!!
Imp;
先祖帰りする機構が生体には備わっている。
この機構、悪性腫瘍細胞の生き残り策でも使い回しされていそうです。
DNA=万能プログラミング言語!!