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5月1日:神経性炎症(Nature オンライン版掲載論文)

2014年5月1日
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組織が障害を受けたとき痛みなど複雑な感覚を伝える侵害受容体はもともと血管や白血球を刺激して炎症を誘導する働きがある事が知られていた。今日紹介する論文はこの延長にあり、痛みというより皮膚のかゆみと角質化の促進を症状とする乾癬発症にこの神経系が重要な役割を演じている事を示している。ハーバード大学のグループがNatureオンライン版に発表した論文で「Nociceptive sensory neurons drive interleukin-23 mediated psoriasiform skin inflammation(侵害性の感覚神経はインターリューキン23を介して乾癬性皮膚炎症を推進する)」がタイトルだ。   まず断っておくがこの仕事は全てマウスの実験モデルでの話だ。マウス皮膚にIMQという化学物質を塗布すると人間の乾癬とよく似た症状を誘導できる事が知られている。症状が似ているだけでなく、IL-23が炎症の引き金として関わる点でもよく似ている事から、乾癬モデルとして広く使われるようになっている。この研究ではこのモデルを使って、乾癬に侵害性受容神経が関わっていないかを調べている。感覚神経と炎症を結びつけるのは一見突拍子もなく思えるが、実際麻酔や神経ブロックで感覚神経機能を抑制すると乾癬が改善する事が知られていたようだ。予想通りマウスモデルでも、侵害性神経の機能をブロックした後IMQを塗布すると炎症は起こらない。一方、血管の収縮に関わる交感神経をブロックしても何の効果もなく、侵害性神経が特異的に関わっている。この観察を入り口として実験を進め、到達した結論は次の様なシナリオだ。残念ながら乾癬の本当の引き金はよくわかっていないが、最初の刺激に続いて侵害性受容体が刺激される。この神経は皮膚に常在する樹状細胞と結合しており、次に樹状細胞のIL-23分泌を誘導する。IL-23は次にやはり皮膚に常在するγδ型T細胞を刺激し炎症性のサイトカインIL-17、IL-22分泌を誘導する。この結果局所に炎症細胞が集まり、また炎症領域も拡大すると言うシナリオだ。乾癬の誘導と言う視点から見ると神経が悪い事をしているように見えるが、おそらく特定の場所から離れる事のない神経を最初の引き金にすることで、炎症の局所性を確保するという特殊な系が生まれたのだろう。実際、全く移動性のない神経、少しは移動できる樹状細胞、もう少し動けるγδ型T細胞、そして自由に身体を移動する様々な炎症細胞と連鎖反応が拡がり、一定の範囲の炎症をひきおこす過程はその巧妙さに唸らずにはおられない。事実神経細胞だって元は普通の細胞から進化して来た。乾癬はそんな進化の過程を教えてくれる病気かもしれない。

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