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3月3日 抗体では鼻粘膜へのCoV-2感染を防ぎにくい(2月25日 Cell Host and Microbe オンライン掲載論文)

2021年3月3日
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Covid-19に対するワクチンについての治験結果を見ていると、CoV-2に対する抗体を誘導して、一定期間私たちに完全な自由を与えてくれることはよく理解できる。すなわち、接種を受ければ、症状を伴うCovid-19にかかる心配はまずない。

ただ、ワクチンを受けた人が、他の人に感染させないという保証があるか?言い換えると無症状の感染者になる可能性はないのか?というと、心配な点がいくつかある。

まず、無症状感染について調べたアストラゼネカのワクチンでは、症状を抑える効果と比べると、効果がかなり落ちることが示されている。すなわち、肺炎などは起こらないが、鼻感染は防げない可能性がある。

幸い、ついこの前ケンブリッジ大学から発表されたファイザーワクチンについての論文では、PCR陽性になる確率も4−8倍低下するので、安心できそうだが、最終的にはイギリスで始まった感染実験が答えてくれるだろう。

だとしても、もう一つ気になるデータがある。それは以前紹介した100日以上ウイルスを排出し続けた71歳で白血病で治療中の無症状感染者の女性の報告だ(https://aasj.jp/news/watch/14412)。この患者さんは2回に分けて回復者の血清療法が行われているが、それ以降20日にわたって鼻粘膜PCRは陽性のまま続いている。

また、以前紹介したようにエール大学の岩崎さんたちは、血中に抗体が存在しても局所(この研究の場合膣)に移行するわけではないことも示している(https://aasj.jp/news/watch/10382)。

これらを総合すると、ワクチン接種後はCovid-19感染による恐怖からは解放されるが、他人への迷惑という点では、感染実験が終わるまではまだ無罪放免とはいかないことがわかる。

前置きが長くなったが、今日紹介する香港大学からの論文は、少なくとも動物実験では、ワクチン接種でも無罪放免とはいかないことを示す研究で、2月25日Cell Host & Microbeにオンライン掲載された。タイトルは「Robust SARS-CoV-2 Infection in Nasal Turbinates after Treatment with Systemic Neutralizing Antibodies(中和抗体が血中に存在しても鼻甲介では安定的なSARS-CoV2感染が見られる)」だ。

研究は簡単で、ヒト由来モノクローナル抗体の開発途中で、モルモットを用いて抗体の効果を確かめたところ、前もって抗体投与することで肺炎発症は防げるにもかかわらず、鼻甲介粘膜細胞ではウイルス由来Nタンパク質が発現し続け、ウイルス感染が続いていたことが示されている。この原因を確かめるため、鼻汁中和抗体について調べ、ほとんど存在していないことも確認している。

以上が結果の全てで、力作というには程遠いが、ワクチン接種が進む今、ワクチン接種で病気発症の心配はなくなっても、感染を広げるスプレッダーとしての役割があるかもしれないことを一応警告として留意する必要があるとして採択されたのだろうと思う。

ヒト抗体をモルモットで確かめる実験が、そのままヒトに当てはまるわけではないが、アストラゼネカワクチンの治験結果をサポートする。一方、2月24日にケンブリッジ大学から発表された、ファイザーワクチンが感染を防ぐという論文は明らかにこの結果と異なる。これがワクチンの種類による違いなら、本当の意味での開放のためにはファイザーワクチンということになるが、結論は早い。

今回利用されるワクチンは、筋肉注射という点で一致していても、あまり報道されない様々な違いが存在する。その意味で、ワクチン接種者についての感染実験を通して、無症状感染が防げるのかどうか、それぞれのワクチンについて再検討することは急務だと思う。これが明らかになれば、マスクからも解放されるかどうかもわかるだろう。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ワクチン接種で病気発症の心配はなくなっても、感染を広げるスプレッダーとしての役割があるかもしれないことを一応警告として留意する必要がある。
    Imp:
    マスク生活からも早く解放されたいです。
    夏場はキツイ。

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