まずWikipedia Creative Commons 掲載のTCAサイクルの過程を見てみよう。
Wikipedia :https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Citric_acid_cycle_with_aconitate_2_ja.svg より転載。
おそらく高校、大学で習ったように、細菌から人間まで、物質からエネルギーを合成するための最も基本的回路だ。ここでの矢印を見てもらうと、糖や脂質の参加により生成されたアセチルCoAがオキザロ酢酸からクエン酸への転換経路に組み込まれ、ぐるっと回ってくるうちにNADHなどが生成される。
これが無生物から生物の誕生過程(Abiogenesis)の早くから物質を作る基本過程になっていたのではと考える証拠がいくつか存在する。その一つは、この回路の中間生成物は、酵素が存在しない条件でも鉱物の触媒作用により合成されサイクルを形成できることを示す論文が報告されている。
Abiogenesisに興味がある私にとっては驚くべき論文だったので、今も講義で利用している。
もう一つの証拠は、光合成なしに有機物を自分で合成できるAutotorophでは、TCAサイクルの方向性を決める不可逆過程を異なる酵素過程で置き換えて、クエン酸からアセチルCoAを介してピルビン酸を合成する逆の過程を動かし、無機物の炭酸ガスの炭素を同化することができることがわかっている。
実際、鉱物触媒で形成されるTCAサイクルでも矢印はピルビン酸合成の方向に向いている。
今日紹介する論文は、Autotorophの中には、単純にTCAサイクル逆回しではなく、どちらにでも回転させられる古細菌が存在していることを示した論文で4月21日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「High CO 2 levels drive the TCA cycle backwards towards autotrophy (高いCO2濃度がTCAサイクルを逆回しして自己栄養を可能にする)」だ。
この研究では、データベースの解析とTCAサイクルに関わる酵素の検討から、逆回しのシステムではなく、一般的なTCAサイクルにクエン酸合成酵素を組み入れることで、逆回しが可能であることを明らかにしている。実験としては、炭酸ガスの炭素をアイソトープ標識し、それがTCAサイクル由来のアミノ酸のどの部位に組み込まれるかを調べ、分解の酸化サイクル、合成の参加サイクルのどちらも稼働することを示している。
その上で、逆回しするための自由エネルギーの壁を越える方法に、このような酵素がCO2そのものを使っていることを実験的に明らかにしている。すなわちCO2が高い環境では、合成型のTCA サイクル逆回りが起こり、物質が合成される。その結果、外部から栄養がなくても、生存できることを示している。
実験的にはこれだけだが、生命誕生のあとのCO2の高い地球環境を考えると、還元酸化両方のサイクルがCO2濃度に応じてバランスを取るという話は、確かに魅力的だ。そして、このような生物が現在もなお、サーマルベントのような条件で生きていることに深い感動を覚えてしまう。
CO2が高い環境では、合成型のTCA サイクル逆回りが起こり、物質が合成される。
結果、外部から栄養がなくても、生存できる。
Imp;
光合成を連想しました。
CO2+H2O+光⇒有機物合成。
光合成の原型もこんなところにあるのかも?
光合成は光も利用しますから、かなりハイテクです。