AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 5月9日 オレゴンメドウマウスの性染色体のゲノム解析(5月7日号 Science 掲載論文)

5月9日 オレゴンメドウマウスの性染色体のゲノム解析(5月7日号 Science 掲載論文)

2021年5月9日
SNSシェア

この論文を読むまで全く知らなかったが、性染色体がオスでは2本、雌では1本という不思議なオレゴンメドウマウスというトゲネズミがいることを知った。しかも、私も一度だけお会いすることができたが、シティーホープの大野乾先生によって研究され、生殖と性決定に関する一つのモデルが提案されていたようだ。

同じような不思議な性染色体を持つネズミにわが国のアマミトゲネズミがある。JSTさきがけプロジェクトで一緒だった本多君から、オスもメスもX0型だというのを聞いていたが、この場合、生殖細胞発生過程とゲノムを解読して、まず解決すべき疑問は、Y染色体上のオスを決める遺伝子がどこに散らばったかという問題とともに、X染色体上の性に関わらない遺伝子同士の減数分裂時の相同組み換えをどう保証するかという問題だ。

オレゴンメドウマウス(OM)も、たしかに性染色体の構造だけで面白いと言えるのだが、本当の面白さは性生殖の機能がどう果たされているのかをゲノム解読により理解して初めて明らかになる。

今日紹介するカリフォルニア大学リバーサイド校からの論文は、long readを組み合わせた性染色体のゲノム解析から、OMの驚くべき性染色体進化の過程を明らかにした論文で5月7日号のScienceに掲載された。タイトルは「Sex chromosome transformation and the origin of a male-specific X chromosome in the creeping vole(オレゴンメドウマウスの性染色体の変容と雄特異的X染色体の起源)」だ。

大野先生は、オスに見られるX染色体に似ているが少し短い染色体をY染色体と考えていた。当然大野先生は発生時期の染色体解析を行なっており、なんと生殖細胞では雌はXXで、卵子ができる時に一本が失われること、すなわち相同組み換えはしっかり保証されていることを示している。さらに驚くのは、雄の生殖細胞で、体細胞にはXYが揃っているのに、生殖細胞ではYしか存在しない。

まずこの研究では、OMのメス型のX染色体は、なんとY染色体がそっくり融合してできたXY合体染色体で、当然SRYも含め全てのオスを決める遺伝子が載っていること、そして大野先生がY染色体と読んだ遺伝子は、XYが融合してできたメス型の染色体から、一部のY遺伝子が欠損した染色体であることを明らかにしている。

すなわち、雄の減数分裂時にXY融合遺伝子が形成され、そこからOMの生殖系が再構築されたことを示している。ただ、2種類の染色体の構成過程は単純なXY融合だけでは片付けられない複雑なもので、しかもヘテロクロマチンを誘導する繰り返し配列やトランスポゾンが複雑に存在して、雄決定のための遺伝子が全てXに存在しても、性決定が可能なよう保証されている。ただ、実際のオスとメスがどうできるかを、このゲノム構造と対応させるのはこれからの問題だろう。

ただ、XY融合でできたとはいえ、オスを決める側と(Xp)、メス(Xm)を決める側が存在するので、少なくともゲノム上での差が存在するはずだ。最初多くのオス遺伝子が不活化されているのではと考えて調べたようだが、この可能性は否定された。一方、SRY遺伝子のコピー数が、オス側で数倍に達していることを発見している。すなわち、all or noneではなく、SRYの量が性を決めている可能性が示唆された。

次に、オス側のXpは相同組み換えが起こっていないと考えられるので、相同組み換えがないと抑えが効かないコピー数の変異を調べると、期待通りXpのみでコピー数の変異が多く見られる。また遺伝子自体のSNPもXp側で40倍多い。すなわちYと同じように選択のために相同組み替えが起こらず、おそらくSRY以外は淘汰される運命にあるかも知られない。

そして最後の問題は、オスの体細胞ではX染色体部分が2本存在し、メスでは一本しか存在しないこと、すなわち我々人間でX染色体不活性化と呼ばれる現象は、オスで起こる必要がある点だ。実際、X染色体不活性化に関わるXistRNAの発現はオスにしか見られず、他の哺乳動物と逆のことが起こっている。ただ、Xと言っても、明らかにXpとXmは異なるので、人間のようにランダムに不活化が起こるのではなく、メス由来のXmをそのままに、オス由来のXpのみが不活化されるようにできている。しかも、Xistの転写活性を下げることで、これを可能にしている。

もっともっと面白い話があったかもしれないが、不思議さと面白さが入り乱れて、頭の整理がつかないほど複雑だ。性や性染色体の進化を研究するための大きな基盤ができたと思う。ともかく興奮する論文だ。

おそらく、X0型のアマミトゲネズミもゲノムと生殖細胞発生過程が明らかになれば、大きな興奮を生むこと間違い無い。結果が分かるのを首を長くして待っている。

  1. okazaki yoshihisa より:

    オスの体細胞ではX染色体部分が2本存在し、メスでは一本しか存在しないこと、すなわち我々人間でX染色体不活性化と呼ばれる現象は、オスで起こる必要がある。
    Imp;
    生殖活動は“生命活動の根幹”。様々な策が使われていて不思議です。
    サメの有性生殖と単為生殖の使い分けとか。。。
    遺伝子=万能プログラミング言語=どんな課題にも解答を出す。
    https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5461/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。