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5月14日 アンチセンスRNAを経口投与できる(5月12日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年5月15日
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様々なモダリティーの新型コロナワクチンの中で、RNAワクチンが、スピード、量産性、そして効果で他を凌駕したことは誰もが認めるところだ。実際、我が国では現在までファイザー/ビオンテックのワクチンだけが接種されており、ようやく17日から始まる新しいワクチンもモデルナのRNAワクチンだ。これまで何度も紹介してきた様に、これらのワクチンにはRNAによる自然免疫を抑えるためのテクノロジーが用いられ、免疫と副反応の間の絶妙のバランスをとっている。

この様にRNAを異なる目的に合わせて化学的に修飾する技術は、現在大きな進展を見せている。しかし、流石に経口投与可能なアンチセンスRNAが可能だとは思わなかった。今日紹介するアストラゼネカ社の研究所からの論文は、肝臓細胞を標的にする場合なら、アンチセンスRNAを経口投与することも可能であることを示した目から鱗の驚くべき研究で、製薬企業では、素人には考えも及ばない様々な試みが行われていることを実感した。タイトルは「An oral antisense oligonucleotide for PCSK9 inhibition(PCSK9阻害のための経口投与可能なアンチセンスオリゴヌクレオチド)」だ。」

タイトルにあるPCSK9は、LDL受容体に結合して分解を早める分子で、これを抑えることでLDLコレステロールの処理力を高めることができることから、新しい高脂結晶治療標的として注目されている。現在、モノクローナル抗体を用いてPCSK9を抑える方法が先行しているが、以前紹介した様にアンチセンスRNAを用いて肝臓でのPCSK9 mRNA を抑える方法の開発も、大手の製薬会社を中心に研究が進んでいる(https://aasj.jp/news/watch/1135)。

このとき紹介したアンチセンスRNAは、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンと同じで脂肪のナノ粒子に包んで静脈投与する方法だったが、アストラゼネカ社は、化学的に安定化させたアンチセンスRNAに、GalNacを結合させて、選択的に肝臓に取り込まれる様にする方法で、静脈ではなく、皮下投与でPCSK9のmRNAを抑えるアンチセンスRNA薬AZD8233を開発していた。

今日紹介する研究は、これまでのAZD8233研究を通して、その体内での安定性に自信を持った結果、ひょっとしたら経口投与も可能ではないだろうかと着想し、今可能性を追求したもので、具体的にはAZD8233を安定に小腸まで到達し、腸上皮を通って門脈に移行できる様、Sodium Caprateと混ぜた錠剤を開発し、これをテストしている。

研究は単純で、ラット、犬、サルを用いて、実際にAZD8233が経口投与で肝臓へと到達でき,PCSK9の分泌を抑え、最終的にLDLコレステロールの値を低下させるか検討し、全ての動物でAZD8233が期待通り門脈を通って肝臓に到達し、PCSK9の分泌をおさえ、結果として血中のLDLコレステロールを低下させることを示している。

ともかくうまくいったと言うこと自体が驚きだが、例えばサルを用いた実験で、毎日28mgのAZD8233を投与すると、LDLコレステロールが60%低下するのを見ると、ついにRNAテクノロジーも、経口投与可能なところまで到達したかと言う感慨が深い。

もちろん皮下投与と比べると、必要な量も多く、おそらく価格も眼玉が飛び出るのではないだろうか。しかし、RNA テクノロジーが着実に進んでおり、その氷山の一角にRNAワクチンがあることを理解できる論文だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    AZD8233を安定に小腸まで到達し、腸上皮を通って門脈に移行できる様、Sodium Caprateと混ぜた錠剤を開発し、これをテストしている。
    Imp:
    RNA:不安定な化合物というイメージがあるのですが。。
    (コロナワクチンも低温での保存が必要)
    AZD8233:常温での保管が可能。消化管⇒門脈⇒肝細胞⇒効果発現のデリバリーが可能とは。。。

  2. YH より:

    PD-1/PD-L1軸の免疫チェックポイント阻害剤は、肝転移に対しては効果が今1つ。ペプチドワクチンの代わりに経口RNAワクチンとし、肝臓に取り込まれて、肝転移にも効果が上がるなら、理想的と感じました。その際は、安価なRNAワクチンの製造方法の開発も必要かもしれません。

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