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5月17日:放射線障害の新しい治療法(5月15日号Science Translational Medicine掲載論文)

2014年5月17日
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放射線障害治療に活性酸素スカベンジャーなどが効果が確認された薬剤としてこれまでも利用されている。しかし効果が出るためには被爆以前から予防的に使用する必要があった。これに対し今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、被爆後1日を経過した後投与を始めても効果があると言う新しい薬剤についての研究で、5月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「PHD inhibition mitigates and protects against radiation-induced gastrointestinal toxity via HIF2(PHD蛋白は放射線の消化器毒性をHIF2を介して軽減し防ぐ効果がある)」だ。PHD蛋白とはHIFと呼ばれる低酸素や様々なストレスにより活性化される分子を就職する酵素で、これによりHIFが分解される。HIFは消化管上皮をストレスから守ることが知られている。このグループは放射線による消化管上皮障害にもHIFが効果があるのではと狙いを付け、HIF分解に関わるPHD蛋白を抑制してHIFが壊れなくして調べている。PHD蛋白は3種類存在するが、全ての分子を腸管で発現できなくしたマウスでは予想通り、放射線照射による死を抑制する効果を確認した。次にPHD蛋白の機能を阻害する薬剤DMOGに同じ効果があるか放射線照射前から投与して調べると、期待通り抑制効果があった。実際の放射線被爆では、被爆を予想して薬剤を投与できるのはあらかじめ計画された放射線治療時ぐらいで、事故では被爆後から投与して効果のある治療薬が必要だ。このため、DMOG投与を被爆後24時間から始めたときも同じ効果があるか調べ、17グレイまでの被爆であれば治療効果があることも確認している。更に、がんの放射線治療で、がんの方にも放射線抵抗性が獲得されると困るので、実験的がんを移植してDMOGを投与する実験も行い、がんの抵抗性を上げることがないことも確認している。メカニズムについても検討しており、PHD蛋白抑制によりHIF2が安定し、この作用で血管増殖因子(VEGF)分泌が上昇すると言うシナリオを示している。とすると、VEGF投与も放射線障害に効果があることになる。示されたデータは全てマウスを用いた実験結果だが、人間にも使えるPHD阻害剤は東大医学部のグループにより貧血治療(HIFが安定化すると赤血球を増殖させるシグナルが上がる)のため開発されていることから、この結果を人でも試すためにそう時間はかからないと思える。新しい治療法として期待でしたい。

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