どんな分野でも、やってみようと思い立つ人が出てくるまで、考えもしないという可能性がある。そんな典型例が、今日紹介するハーバード大学とスタンフォード大学からの論文で、結論はRNAも糖鎖修飾を受け細胞表面上に発現するという話だ。タイトルは「小分子RNAはN-グリコシル化により修飾され細胞表面に提示される」」だ。
タンパク質や脂肪が糖鎖修飾されることは教科書的な知識だが、RNAなどの核酸が糖鎖修飾を受けるなどとは教えたことも、教えられたこともないし、いくらRNA が多様な機能可能性を持つことを理解しても、わざわざ細胞表面で何らかの機能をするとは思えない。
そんな常識を振り切って、RNAも糖鎖修飾されている可能性を探るため、細胞培養中に糖鎖を標識し、標識分子を指標に糖鎖修飾された全ての分子を回収した後、RNA以外の全ての分子が除去される厳しい処理を行い、RNAも糖鎖修飾を受けていることを発見する。面白いことに、このような糖鎖修飾を受けるRNAのほとんどはmRNAではなく、小分子non-coding RNAと呼ばれる分子であることを、核酸配列から示している。
このような研究に対しては、レフリーは最初から疑ってかかるので、ともかくRNAが糖鎖修飾を受けるということを証明するため、様々な実験を行なっており、その結果、
- RNAに結合する糖鎖は、通常哺乳動物で見られるシアル酸が結合している。
- RNAを就職している糖鎖の構造は細胞ごとに少しづつ異なっている。
- 糖鎖修飾を受けたRNAは細胞表面上に存在し、レクチンに結合する糖鎖の近傍の分子を標識する方法で、標識できる。
- シアル酸結合レクチンと二重鎖RNAに対する抗体が、細胞表面上の糖鎖修飾RNAと結合できる。
などが明らかにされた。化学上、N-グリコシル化が直接RNAに起こる可能性はないので、RNAに取り込まれるグアノシンが先に修飾され、その上にNグリコシル化が起こるのだろうと結論している。しかし、更なる詳細には今後の研究が必要で、例えばどうしてRNAが分泌されてしまわずに、細胞表面上に止まっているのか、そして何よりもその機能は何かなど、謎が多い。
新型コロナウイルスに対する自然免疫センサーの一つ、TLR7は細胞内で働いているとしているが、最近東大医科研の三宅さんたちは細胞膜上で機能していることを証明している。細胞がパンクした後のRNAを検出するのかなどと勝手に考えていたが、RNA自身が細胞膜に存在するとすると、様々な可能性が浮かんでくる。これは私の戯言に過ぎないが、おそらく、新しいイメージが多くの人に浮かんでいるのだと思う。
どうしてRNAが分泌されてしまわずに、細胞表面上に止まっているのか、その機能は何かなど、謎が多い。
自然免疫センサーの一つTLR7は細胞内で働いているとしているが、最近東大医科健の三宅さんたちは細胞膜上で機能していることを証明している。
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新たな知見。
生命科学の本、版が変わる度に内容が斬新されるのが理解できます。