ゲノム情報=核酸配列と思うかもしれないが、決してそうではない。例えばオペロンやホメオボックスといった、遺伝子自体のクラスターといった1次元構築や、さらには3次元トポロジーも、ゲノム自体の重要な情報の一部になっている。
このトポロジーの解読についてはHi-Cを代表とする様々なテクノロジーによりわかってきたが、トポロジーが何により決まっているのかについてはよくわかっていない。
今日紹介するオランダ・ガン研究所からの論文は、トポロジーの種間の差を手がかりに、condensin IIによりこれが調節されていることを示した、面白い研究で5月28日号のScienceに掲載された。タイトルは「3D genomics across the tree of life reveals condensin II as a determinant of architecture type(生命の系統樹を網羅した3DゲノミックスによりコンデンシンIIが構築の形を決めることが明らかになった)」だ。
この研究では、全ゲノムレベルで領域同士の距離を測るHiCを用いて、なんとクラゲから人間まで、様々な多細胞生物のゲノムトポロジーを調べ、それぞれの共通性と差異について比べている。ただ、これだけの種を比較するとなると、 HiCを使えるだけのゲノム解読が進んでいないと難しいため、今回調べた24種のうち、14種については、新たにゲノム解読の精度を自分たちで上げる努力を行なっている。
結果は、一般的な系統とは無関係に、セントロメアやテロメアで異なる染色体間での接触が見られるType Iと、染色体間の接触が少ないType IIに分類できることがわかった。その上で、Type Iと関連する分子を探すと、Type Iをとる蚊では、分裂期に複製されたDNAを正確に分配するコンデンシンII複合体がかけていることに気づく。
そこでコンデンシンがType IとType IIを決める分子かどうか調べるため、Type II型のヒト細胞でコンデンシンII複合体の形成を抑える操作を行うと、なんとセントロメアで異なる染色体同士が接合するType Iへとシフトすることを明らかにする。
ただ、重要なことはこのようなType II vs Type Iのシフトによって転写レベルが変化する遺伝子は、核膜近くのLAD と呼ばれるドメインに固定されて遺伝子転写が抑えられている一部の遺伝子だけで、ほとんど遺伝子発現には変化がないことで、コンデンシンが本来機能している分裂期の一種の適応として起こった変化ではないかと考えている。
これを確かめるため、分裂期をコンデンシンIIの有無で観察してみると、分裂期をへた後G1期でのセントロメアの集合がコンデンシンIIにより抑えられていることがわかる。また、コンデンシンIIがないと、核内で核染色体の領域が混じり合ってしまっていることも示している。
これらの結果から、おそらく染色体の数と長さの変化に適応してコンデンシンIIのレベルが変化し、比較的短いばあいは染色体を濃縮して分離するType II、染色体が長い場合は厳しく染色体を分離しないType Iが分かれたと考えている。
少し専門的だが、同じ種の中でも染色体の数や長さが大きく変化することを考えると、納得いく説明に思える。しかし、コンデンシンIIが欠損したType I細胞を維持し続けると、染色体が融合して長い染色体ができるのだろうか、興味が湧く。
1:染色体の数と長さの変化に適応してコンデンシンIIのレベルが変化する。
2:比較的短いばあい=色体を濃縮して分離するType IIへ
3:染色体が長い場合=厳しく染色体を分離しないType Iへ
Imp:
“核内の彫刻”=染色体トポロジー構造
自然の情報メモリー=核酸の神秘ですね。