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5月22日:体質と摂生(PlosMedicine5月号掲載論文)

2014年5月22日
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自分の遺伝子を調べて病気のリスクを調べることが可能になっている。例えば先日話題になった乳がんの遺伝子BRCA1の突然変異が見つかれば8割以上の人がいつか乳がんを発症するとはっきり宣告できる。一方糖尿病や心臓病などの生活習慣病は統計上のリスクとして科学的に計算できるが、確実に病気になるわけではない。気になるのは、こうして計算されたリスクが実際の病気発症頻度と相関するのかどうかだが、リスクとして計算される数値と発症確率の相関については必ずしも調べられているわけではない。何故なら論文として発表されているのは、計算の根拠として用いる一つ一つの遺伝子多型で、全部をまとめたリスク計算との相関ではない。これを調べるためには大規模な病気発症に関する追跡調査に現行の遺伝子検査を組み合わせることが必要だ。今日紹介する論文を読んで、この大変な調査がヨーロッパでは既に行われていることを知って驚いた。ケンブリッジ大を始めヨーロッパの多くの機関が参加して行われた調査でPlosMedicine5月号に発表されている。タイトルは「Gene-Lifestyle interaction and type2 diabetes: the EPIC InterAct case-cohort study(2型糖尿病に関わる遺伝子と生活習慣の相互作用:ヨーロッパ多国間InterAct症例コホート研究)」だ。EPIC InterAct症例コホート調査は30万人以上の対象者を10年以上にわたって追跡し、糖尿病の発生を調べている。10年目で1万人程度の人が糖尿病と診断されたが、その人達のリスクを、遺伝子検査としてよく使われるイルミナ社の生活習慣病SNPアレーを使って計算して、計算されたリスク値と実際の発症との相関を調べている。予想通り、計算された遺伝子リスクと発症との相関はある。ただ年齢や生活習慣に関わる体重、ウエストサイズなどと更に詳しい関連を見て行くと、遺伝子検査から計算されるリスク値が、生活習慣による影響によって覆い隠されて行くのがわかる。例えば調査参加時若い人、痩せた人、あるいは運動量の多い人だと、遺伝子リスクと発症の相関がはっきりわかる。しかし参加時に、60歳を超えている人、太っている人、ほとんど運動しない人などでは遺伝子リスクと発症との相関が消えてしまうと言う結果だ。糖尿病に限っての話だが、要するに生活習慣のリスクは遺伝子リスクよりはるかに高いと言う結果だ。我が国でも遺伝子による体質検査サービスについて、経産省主導で議論が始まっているようだが、消費者の疑問に答えるためにエビデンスを集めるヨーロッパの取り組みから学ぶ所は多い。

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