末梢血に漏れ出てきたガン由来のゲノム断片を検出して、体内に存在するガン細胞の有無を予測する技術は、リキッドバイオプシーと名付けられ、体内に潜むガンを検出できる期待の星として登場した。私も何回か紹介して、かなり期待したが、今のところ普及が進んだという印象はない。実際、早期に診断できたとしても、他の診断基準でガンの再発などがはっきりしない限り、リキッドバイオプシーの結果だけで、治療方針を変えることが難しい。結局何もできないなら、診断に利用する意味もなくなる。
今日紹介する英国Queen Mary 大学からの論文は、この技術を尿路上皮ガンのアジュバント・チェックポイント治療の効果予測に利用できることを示した研究で、6月16日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「ctDNA guiding adjuvant immunotherapy in urothelial carcinoma (尿路上皮ガンのアジュバント免疫治療を末梢血ガン由来DNAがガイドする)」だ。
これまで何回か紹介してきたが、手術可能な腫瘍を切除した後、取り残したガン細胞の存在を予測して化学療法などの全身療法を行うことをアジュバント治療、このアジュバント治療を手術前から行うことをネオアジュバント治療と呼んで、今や多くのガンに対する標準治療になっている。さらにこのアジュバント、ネオアジュバント治療をPD-1やPD-L1に対する免疫チェックポイント治療薬を用いて行うための治験が世界中で進行している。
この研究ではPD-L1抗体を用いた尿路上皮ガンアジュバント治療治験に、リキッドバイオプシーを組み合わせ、ガン治療効果を予測できないか調べている。まず、リキッドバイオプシーに用いるゲノムマーカーを探索する目的で、個々のガンのエクソーム解析を行い、最終的に16種類の変異をガンマーカーとして選び、このうち2種類以上のマーカーが陽性になった場合、末梢血ガンDNA(ctDNA)陽性と判断している。
さて、結果だが治験参加者全体で見た時、ctDNA陽性=ガンの残存を示しており、予後が悪い。すなわち、これまで通り手術の完全性を予測する方法としては有効なことがわかる。
この研究ではPD-L1に対する抗体によるアジュバント治療を行っており、これを利用してアジュバント治療効果をctDNA陽性、陰性例で比べると、明らかにもともと予後が悪い陽性例で効果がはっきりする。一方、ctDNA陰性例では、免疫治療の効果はほとんど見られない。すなわち、取り残しがある場合は、それをctDNAで診断でき、免疫治療の効果を期待できるという結果だ、さらに、ctDNA陽性例で、アジュバント治療により陰性に転換したケースでは、長期生存が期待できることも示している。
データを見ると画期的な結果に見えるが、よく考えると当然で、取り残しがあれば予後は悪いが、チェックポイント治療で対応可能で、その効果は1ヶ月目のctDNAで判断できるという話で、治療法としては何も変化がないのだが、ctDNA検査で治療効果の予測が可能という結果になる。
これを確かめるため、少数例ではあるが、外科手術前に免疫治療を行うネオアジュバント治療でもctDNA検査を行い、抗体治療の効果をctDNAで判断できることも示している。
最後に、これまで尿路上皮ガンの悪性度を示すバイオマーカーと、ctDNA検査から見られる免疫治療への感受性の相関についても調べており、まずctDNAで検出できるガン残存の頻度は、細胞周期関連遺伝子やケラチン遺伝子の発現と相関すること、そしてチェックポイント治療への感受性は、ガン組織のインターフェロン関連遺伝子の発現、扁平上皮ガン関連分子の発現、そしてガンの突然変異の数などが相関していることを示している。
ctDNA陽性例で細胞周期関連遺伝子発現が高いことは、より悪性度が高いことを示しており、取り残しが発生しやすいことと当然関連するが、ケラチン遺伝子の発現はひょっとしたらDNAの流出のしやすさに関わるのかもしれない。いずれにせよ、この論文は、ctDNAが治療効果を判定するバイオマーカーとして利用できることを、私に実感させてくれた。
取り残しがある場合は、ctDNAで診断でき、免疫治療の効果を期待できる、
ctDNA陽性例で、アジュバント治療により陰性に転換したケースは、長期生存が期待できる.
Imp:
ctDNA検査も早く現場に登場して欲しいです。