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6月20日 プロバイオ研究のお手本(7月22日 Cell 発行予定論文)

2021年6月20日
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巷には免疫力を高めるヨーグルトといった宣伝が溢れているが、どこまで確かな治験に基づくものかほとんど分からない。有名な世界的研究所とコラボしているという事実で、製品が優れているという錯覚を生み出そうとする宣伝まで平気で行われているのを見ると、ここにも我が国科学技術の劣化を感じてしまう。

一方、ロイテリ乳酸菌のように、数多くの研究論文が存在し、トップジャーナルに何度も登場するプロバイオも存在する。自分で確かめることができない消費者のために、本当に効果のあるものを提供する力も、一国の科学力に直結する。栄養学は総合的人間学であり21世紀が栄養学の世紀でもあることを忘れて、マーケティングで済ませていると、今回のワクチンと同じ轍を踏むことになる。

今日紹介するカロリンスカ研究所とネブラスカ大学からの論文は、プロバイオティックスの研究とはこうあるべきだと教えてくれる研究で、7月22日号のCellに掲載予定だ。タイトルは「Bifidobacteria-mediated immune system imprinting early in life(新生児の免疫システムに見られるビフィズス菌によるインプリンティング)」だ。

これまでの多くの研究から、新生児期の免疫システムの発達経過が将来の健康に関わることがわかってきており、またこの発達に腸内細菌叢が関与することもわかっている。しかし、これを利用して新生児期の免疫システムを好ましい方向に向けることに成功した研究はまだない。

もともとカロリンスカ研究所は新生児期の免疫システムと腸内細菌叢の発達研究をリードしており、この研究でも、研究所で誕生した新生児208人について64種類の免疫に関わる細胞と355種類の血清タンパク質を経時的に検査するコホート研究を走らせている。この結果、生後すぐから腸内のCD4T細胞は抗原に反応して増殖、末梢血でも検出できるようになることがわかる。

これと並行して腸内細菌叢も変化を続け、特に母乳から供給される様々なビフィズス菌の増加は一般的に見られるが、その割合の個人差は大きい。

次に、腸内のビフィズス菌の量と、末梢血の免疫システムの関係を調べると、ビフィズス菌が多い子供ほど、炎症性サイトカインを抑えて抑制性T細胞を増やす方向への変化が見られ、逆にビフィズス菌が少ないと、キラーT細胞や炎症性細胞とともに炎症性サイトカインのレベルが高まることが明らかになった。特に、自然免疫を抑えるIL1RAの発現がビフィズス菌量と相関していることに注目している。

ではビフィズス菌の何が免疫システムを変化させているのか?著者らは、オリゴ糖分解能ではないかとあたりをつけ、腸内細菌叢のゲノム解析を進め、ビフィズス菌のオリゴ糖分解系に関わる遺伝子発現と抗炎症的免疫システムの発達が関わることを確認している。

このレベルで研究が終わるのが普通だが、この研究ではネブラスカ大学とベンチャーが共同開発したEVC001と呼ばれたビフィズス菌株を投与することで、腸内環境を抗炎症型に変えられないか治験研究を行なっている。今度はカリフォルニア大学で誕生した新生児60人に、1週目から4週目まで、1.8×1010菌を投与60日目に様々な指標を調べている。

結果は明瞭で、EVC001を投与した子供全員で、腸内細菌叢のオリゴ糖分解遺伝子発現が高まっており、抗炎症的サイトカインプロフィルに変化していることがわかった。

このメカニズムをさらに調べるため、子供の便の上清を集め、これを試験管内でCD4T細胞に加えると、未熟な細胞を培養した時、EVC001を投与された子供の便上清がTh1分化を強く誘導し、これがオリゴ糖分解産物による作用でインターフェロンβ依存的に誘導される、IL-27やIL-10により、抗炎症的環境が出来上がると結論している。また、CD4T細胞のガレクチンの発現を、腸内の抗炎症環境の指標として使えることも示している。

結果は以上で、コホート研究を基礎に、介入のためのプロバイオを開発し、その効果を人間で確かめたという驚くべき力作で、21世期のプロバイオ研究はこうあるべきというお手本になると思う。もちろん、今回参加した子供たちの長期の追跡研究も重要だが、本当に新生児の腸内環境を整えられる時代が来るかもしれない。

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