昨日、CSF1Rシグナル阻害により組織中のマクロファージを除去して、ガンの免疫を高める方法が治験段階にあり、その副作用としての浮腫が問題になっていることを紹介したが、実際にはマクロファージにも様々あり、単純な話ではない。私の理解では、いわゆる組織に居ついているtissue resident macrophage(TRM)がCSF1Rシグナル依存性だと思っているが、CSF1R阻害で期待できる効果はガンや組織によって大きく違っていると思う。そこで、この複雑性を知ってもらう目的には格好の論文を今日は紹介して、昨日の論文紹介をサポートすることにした。
論文のタイトルは「Tissue-resident macrophages provide a pro-tumorigenic niche to early NSCLC cells(組織常在マクロファージは初期の非小細胞性肺ガンの増殖を助けるニッチを形成している)」で、6月16日Natureにオンライン掲載された。
もともと肺には様々なマクロファージが存在しており、炎症の主役になっている。この研究ではそこに発生する非小細胞性肺ガン(NSCLC)に集まるマクロファージの種類を特定することから始めている。そして、マクロファージと言っても単一ではなく、なんと遺伝子発現プロファイルが全く異なる4種類のマクロファージが特定できることを発見する。また、マウス静脈にNSCLCを注射して移植した肺転移ガンでも、ほとんど同じ4種類のマクロファージが特定できることを確認する。
マウスで特定できた結果、どのタイプが血液幹細胞から常に供給されているマクロファージで、どのタイプが組織内で増殖しているTRMであるかを実験的に調べることができる。完全に人間と同じかはもちろん検証が必要だが、細胞の系列追跡実験から、TRMは、遺伝子発現からType Iと名付けた集団であることを特定する。
発現マーカーを使って、肺へ腫瘍が移行した後の腫瘍とTRMとの関係を見ると、最初入り混じって存在していた両者が、ガンを中心に、TRMを外側に配置した組織構造をとることを示し、両者が密接に相互作用をしていることを示している。
この相互作用の効果を調べる目的で、ガンのオルガノイド培養を行い、そこにTRM、あるいは骨髄由来マクロファージを加える実験を行うと、TRMを加えたときにのみ、腫瘍の上皮間葉転換がおこり、ガン細胞の遊走が高まることを示している。
最後に、TRMのみをジフテリアトキシンで殺す方法を用いて、NSCLCを移植したマウスのTRMを除く実験を行い、これによりCD8キラー細胞の浸潤が高まり、一方で抑制性T細胞の誘導が抑えられ、腫瘍縮小を促進することを示している。
この結果を裏返せば、TRMは、ガンへ働きかけて、悪性度を高めるとともに、免疫システムを抑えることでも、ガンを助けるという厄介な細胞であることを意味している。この研究では、TRMをCSF1R阻害で除去できるかどうかは示していないが、読者も、この細胞を除去することの重要性を理解してもらったのではと思う。
ではなぜこんな厄介な細胞を私たちが抱えているのかだが、昨日紹介した副作用からもわかるように、正常の組織維持に大きな役割を果たしている。皮肉なことだが、CSF1R阻害治療が進むことで、副作用を通して、TRMの機能の理解も進むと期待している。医学とはそういうものだ。
ガンのオルガノイド培養を行い、TRM or 骨髄由来マクロファージを加える実験を行う。 TRMを加えたときにのみ、腫瘍の上皮間葉転換がおこり、ガン細胞の遊走が高まる。
Imp:
TRMと腫瘍細胞の相互作用でEMTが起こる。。。
TRMから、何かシグナル分子がでているのでしょうか?
CSF1R阻害治療が進むことで、副作用を通して、TRMの機能の理解も進むと期待している。医学とはそういうものだ。
CD40 agonist APX005M (sotigalimab) and CSF1R inhibitor cabiralizumab with/without nivolumabの第I相臨床試験の論文【 Weiss SA, Djureinovic D, Jessel S, et al. A phase I study of APX005M and cabiralizumab with/without nivolumab in patients with melanoma, kidney cancer or non-small cell lung cancer resistant to anti-PD-(L)1. Clin Cancer Res. 2021 Jun】に目を通しました。まだまだ研究すべきことが多そうです。でも、一歩一歩進んできているのですね。