6月26日、「MECP2研究の新時代が来た」と題して、これまでメチル化されたCG(シトシン、グアニン)結合タンパクとされてきたMECP2が、実際には(全てでないにしても)メチル化されたCA(シトシン、アデニン)に結合して、DNAがヒストンによりヌクレオソームにまとまるのを阻害する役割があること示したフランスストラスブール大学からの研究を紹介した。
内容的にはおそらく医学部大学院生でも難しい論文なので、説明がよくわからないとお叱りを受けた。そこで、7月13日火曜日 朝11時から、MECP2重複症患者家族会の方に参加していただいて、この論文の意義について納得してもらうまで説明しようと考えている。もし平日の朝でも、参加可能な人は、連絡していただければ、zoom アカウントを送ります。
このとき、もう一つ紹介したい論文が、今日紹介するテキサス、バンダービルド大学から発表された論文で、うつ病治療に使われるケタミンやスコポラミンの作用がMECP2を介している可能性を示唆した研究だ。タイトルは「Sustained effects of rapidly acting antidepressants require BDNF-dependent MeCP2 phosphorylation(一過性作用しか持たない抗うつ剤が長期効果を持つにはBDNF依存性のMeCP2リン酸化が必要)」で、6月28日号Nature Neuroscienceに掲載された。
現在うつ病の治療として使われている薬剤の中に、NMDA受容体阻害剤ケタミンがあるが、ケタミンは麻酔剤として知られるように、受容体抑制効果は一過性でしかない。なのに、ケタミンを一回投与しただけで、抗うつ作用が1週間以上続くことから、より持続的な細胞変化が関わることが想定され、ケタミンで誘導される神経細胞過程が徐々に明らかにされてきている(https://aasj.jp/news/watch/14546)(https://aasj.jp/news/watch/3687)。
このケタミンはうつ病だけでなく、なんと介在神経の活動を抑える目的でレット症候群への治験が進む薬剤として期待が持たれている。
そのケタミンがMECP2の機能調節に直接関わっていることを示したのがこの研究で、まずケタミンを注射すると、海馬で神経増殖因子BDNFが一過性に上昇し、その後1週間目にリン酸化されたMECP2が上昇することを発見している。
この上昇がケタミンの抗うつ作用に直接関わることを示すために、MECP2遺伝子を操作して、リン酸化を受けられないようにしたマウスを用いて、泳ぎを強要することで誘導されるうつ状態をケタミンで治療する実験を行うと、リン酸化できないMECP2では、ケタミンの効果がないことがわかった。
すなわち、ケタミンにより一過性にNMDA受容体が抑制されると、細胞内のシグナル変化でBDNFが誘導され、途中まだはっきりしない細胞内過程を経て、MECP2がリン酸化され、その結果うつ症状に関わる細胞変化を長期間維持することができることを示している。
他にも、ムスカリン受容体の阻害剤スコポラミンでも、抗うつ剤として長期効果が知られている薬剤は、同じようにBDNFを介してMECP2リン酸化へと収束すること、また同じ刺激は、前シナプスだけでなく、後シナプスレベルのリプログラミングも誘導できることを示しているが、割愛していいだろう。
要するに、MECP2がリン酸化され、その機能が高まることで、うつ病に関わる遺伝子群の発現の変化を誘導できることをはっきり示したことが重要だ。この研究では、どの分子が変化したのかについては探索すらしていない。しかし、これらの分子が明らかになり、それをMECP2についての新しい視点、すなわちヌクレオゾームの調節から見直すことで、新しい可能性が開けるのではないかと期待する。
これについても7月13日(火)11時より、とことん解説してみたい。
MECP2がリン酸化され、その機能が高まることで、うつ病に関わる遺伝子群の発現の変化を誘導できることをはっきり示したことが重要だ。
Imp:
鬱病にMECP2が関与しているとは。。。
不思議です。