昨年紹介したが、皮膚の難治性の炎症には内在性のウイルスの再活性化が関わることがある(https://aasj.jp/news/watch/12272)。日本語での総説がワンクリックして貰えばダウンロードされるので、是非私の友人の橋本・愛媛大名誉教授のDiHS(薬剤過敏症症候群)の総説を読んでいただきたいが 、皮膚の炎症が一つの原因だけで語るのを難しくしている。
今日紹介する米国衛生研究所からの論文は同じラインの研究で、皮膚のように細菌が繁殖しにくい環境でも、内在性のレトロウイルスが活性化され、自然免疫が誘導されると、強い炎症になることを示した研究で7月8日号のCellに掲載された。タイトルは「Endogenous retroviruses promote homeostatic and inflammatory responses to the microbiota(内因性レトロウイルスが細菌叢に対する定常的・炎症性反応を促進する)」だ。
研究は比較的単純で、Cellによく採択されたなという印象はあるが、意外性のある結果なので、本当なら新しい視点が開ける。皮膚細菌の代表として表皮ブドウ球菌をマウス皮膚に移植したとき、炎症はそれほど強くないのに様々なT細胞の浸潤が起こることに注目し、皮膚ケラチノサイトの反応を調べている。すると、炎症反応は強くないのに、1型インターフェロンの強い反応が誘導され、結果抗ウイルスに関わる分子が強く誘導されている。
炎症の助けなしに強いT細胞反応が誘導できる理由をさらに探索すると、表皮ブドウ球菌により数種類の内在性のレトロウイルスが活性化され、これが逆転写されることで、途中で転写が止まった短いcDNAが細胞内で蓄積し、これがTLR2等の自然免疫シグナル系を介して、T細胞誘導性のサイトカイン分泌を誘導していることを突き止める。
また、逆転写されたcDNAが細胞浸潤を誘導していることを明らかにするため、逆転写酵素阻害剤を投与する実験も行い、これによりT細胞の浸潤が強く抑制されることも明らかにしている。加えて、この内在性レトロウイルス誘導に、細菌側のLPSとタイコ酸が関わることも明らかにしている。
この他にも、cDNAがSTING/GASにより感知されていることや、損傷治癒との関わり、さらには肥満による慢性炎症の影響まで、いろいろ実験が加わっているが、割愛してもいいだろう。
まとめ直すと、表皮ブドウ球菌の場合、LPS/タイコ酸刺激により、内在性のレトロウイルスが活性化されることで、特異的に抗ウイルスの主役、1型インターフェロンが誘導され、ある意味で今流行のサイトカインストームを抑えながらも、T細胞を主役とする細胞浸潤を誘導し、細菌に対する免疫が成立する、になるだろう。
ヘルペスウイルスのケースと比較すると、ウイルスの関与の仕方も様々で大変面白い結果だが、内因性レトロウイルスとなるとあらゆる細胞に、大量に存在すると考えられるので、皮膚だけの話か、あるいは肺や腸まで拡大できる話なのか、少し気になる。
表皮ブドウ球菌の場合:
LPS/タイコ酸刺激⇒内在性レトロウイルスが活性化⇒1型インターフェロン誘導⇒サイトカインストームを抑えながらT細胞による細胞浸潤を誘導⇒細菌に対する免疫が成立する。
Imp:
内在性レトロウイルスの活性化を経由するとは。。。