6月1日慢性リンパ性白血病の薬剤抵抗性(5月28日号The New England Journal of Medicine掲載論文)
2014年6月1日
がんは未熟な幹細胞の増殖異常だとするのが現在の通説だが、もちろん例外もある。特に抗体を造るBリンパ球が異常増殖をする骨髄腫や慢性リンパ性白血病(CLL)はその典型で、間違いなく完全に成熟した細胞からおこるがんと言える。CLLは欧米の高齢者には深刻な問題だが、幸い我が国ではあまり多くない白血病だ。完全に原因がわかっているかと聞かれると、答えはNOだが、抗原に反応して増殖するという、B細胞の本来の機能に必須のシグナル伝達経路の異常活性化がその背景にあると考えられている。これを裏付けるのが抗原からのシグナルを伝えるために必須のBtkと呼ばれる分子の活性がCLLで上昇している点だ。この結果を治療に生かすために、Btkの活性を抑制する分子イブルチニブが開発され期待通りの効果を上げている。ただ一定の割合で薬剤耐性の白血病が発生することがわかって来て、耐性のメカニズム解明が待たれていた。今日紹介する論文は、イブルチニブ耐性のメカニズムについてのオハイオ州立大の研究で、5月28日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは、「Resistance mechanisms for the Bruton’s tyrosine kinase inhibitor iburtinib(ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤イブルチニブ耐性のメカニズム)」だ。研究では6例のイブルチニブ耐性を獲得したCLLの全エクソーム配列を決定し、耐性獲得前の遺伝子と比較した。驚くべきことに、全ての耐性獲得CLLでBtk遺伝子か、PLCγ遺伝子の同じ場所に、同じ変異が見つかったことだ。Btkに対する薬剤だから、Btkが突然変異しても不思議はないが、同じ突然変異が全てに見られることは、耐性の獲得ががんにとってもそう簡単でないことを意味している。また、Btkが直接作用するPLCγの突然変異でも同じ耐性が獲得されると言う結果は、Btkからのシグナル経路がCLLの主要な役割を演じ続けていることを示している。この研究では次にこの変異の生化学的性質を詳しく調べている。詳細は全て割愛してまとめると、Btkの突然変異は、Btkとイブルチニブの結合を不安定にして薬剤の効果を減少させる変異であること、及びPLCγ分子の突然変異は他の分子の調節を受けなくなる異常活性化状態を作り出すことが明らかになった。今回の結果から、がんのしたたかさを垣間みることが出来るが、しかしこれなら必ず対応方法がある。是非新しい異常分子に対する薬剤を早期に開発して欲しいと思う。