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6月8日:パーキンソン病の細胞治療(Cell Reports誌6月号掲載論文)

2014年6月8日
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ちょうど1週間前、京大CiRAの高橋先生にAASJチャンネルにきていただいて、パーキンソン病の治療について話をしていただいた。症状の出るまでに病気を見つけて発症を止めるのが根治だが、症状が出た時には既に細胞の変性が進んでいるので、現在の所ドーパミンを作る細胞を移植することが根治としては最も有望な方法だと言う話をしてもらった。事実、全世界的に見れば胎児の中脳細胞移植を受けた患者さんは500人を超えるのではないだろうか。この治療は人工中絶した胎児の中脳を何体分も集めてそのまま移植する治療で、組織抗原不一致による拒絶反応、細胞の純度などの問題を抱えており有効性の判断が難しいが、大きな効果が見られた患者さんもおられることから、現在細胞治療の有効性を示す唯一の治験結果になっている。有効性が見られた場合次に調べるべき点は、移植したドーパミン産生細胞がどの位長期間脳内で生存し機能するかだ。この点に関して2008年Nature Medicineに3編の論文が報告された。いずれも細胞移植後14−16年後に亡くなった患者さんの脳を組織学的に調べた結果で、いずれの研究も長期間にわたってドーパミン産生細胞が移植部位で生存していることが確認されており、期待の持てる結果だ。ただこの時2編の論文はパーキンソン病の一つの原因になっているシヌクレインの蓄積(レビー小体)が移植した細胞にも見られることから、パーキンソン病はプリオン病のように変性中の細胞から移植した元気な細胞へと伝播すると言う衝撃的な結果だった。一方3編目の論文では、線条体にはレビー小体は認められないとする物だった。今日紹介する論文は、この3編目の論文を書いたグループが同じ組織を詳細に調べたハーバード大学の研究で6月号のCell Reports誌に掲載された。タイトルは「Long-term health of dopaminergic neuron transplanted in Parkinson’s disease patients(パーキンソン病患者に移植されたドーパミン産生神経細胞は長期間健全な状態を保つ)」だ。2008年の研究では、ドーパミン産生神経細胞の生存だけが確認されていたが、今回の研究では、1)線条体へと新しく神経軸索を伸ばし、ドーパミンを分泌するためのドーパミントランスポーターが正確に神経軸索に発現していること、2)ミトコンドリアの活性から見たとき、移植したドーパミン産生細胞は健康な状態を保っていること、3)一方同じ脳内の黒質にある患者さんのドーパミン産生細胞は変性が進んで、異常なミトコンドリア分布を示していること、等が示されている。即ち、患者さんのドーパミン産生ニューロンは移植に関わらず変性が続くが、移植された細胞は宿主細胞の変性に影響されることなく、長期にわたって活性を保つと言う結果だ。シヌクレインの変性が伝播する点についても否定的な結果だ。さらに胎児期の細胞は未熟なためすぐに効果は見られないが、1年位で宿主の線条体との新しい神経結合を開発し、その後発展が続くという報告例なども紹介されている。まだまだ批判的な研究者も多いようだが、この論文を読んで、我が国でも来年早々にも申請される細胞治療には大きな期待が持てると確信した。前回のAASJチャンネル高橋先生の話を更に裏付けるタイムリーな研究が紹介できた。

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