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6月10日:全ゲノム解析とヘッケル(先週Nature, Science, Nature Communications等の掲載された論文)

2014年6月10日
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様々な分野の論文に目を通しているとこの1年ゲノム解析の終わった動植物は目白押しで、トップジャーナルも競争して論文を掲載しているようだ。ここでも、ワムシ、シロクマ、キウイなどの全ゲノムについて紹介したが、それぞれのゲノムは面白い物語を想像させる。ここで紹介しなかったが、今年始め私が興奮したのは、最も「下等?」なサメ、エレファントシャークのゲノム解析で、なんとCD4T細胞に関わる遺伝子が全て欠損している(Nature,505,174,2014)。ほ乳動物CD4Tについて、30年近くの研究で明らかになった遺伝子の数々が物の見事に存在しない。この結果を元にT細胞分化を見直すことで、進化と発生を再検討し直すことが出来るはずだ。ドイツの進化学者エルンストヘッケルは「個体発生は系統発生を繰り返す」と言う有名な言葉を残したが、系統発生で起こったことの記録はやはりゲノムを知らないと理解できない。ようやくこの言葉の真価を問える。新しい機能やそれを作る発生の仕組みが積み重なって行く過程を知るためにおあつらえ向きの動物を選んでゲノムを解析すると、これまでの発生についての理解が大幅に深まる。その例が今週Natureオンライン版に掲載されたクシクラゲのゲノムだ。クラゲと言っても、普通の刺胞動物に分類されるクラゲとはずいぶん違うが、ゲノムがわかるとクシクラゲ、海綿、ヒラムシ、クラゲと全体の系統関係がはっきりする。この研究からクシクラゲが独自の進化を遂げた種であることがよくわかる。例えば系統樹ではクラゲとの間に位置する海綿には存在しない運動機能が存在する。運動と言う同じ機能のためにそれぞれの種で独立に平行して開発された遺伝子は多くを教えてくれる。事実この機能についてゲノムと照らし合わせてみて行くと紹介しきれない位面白いことがわかる。例えば神経機能についても、イオンチャンネル型のグルタミン受容体が先ず進化して来て、その後シナプス形成に必要な分子が加わって運動機能進化の共通ルールのようだ。しかし、他のクラゲのように神経伝達受容体の多様性はない。このあたりについては是非一度ニコニコ動画で高校生と話をしたい。クシクラゲ以外にも先週はScienceにヒツジのゲノムが報告された。トリコヒアリン遺伝子の数が増えて、反芻のための第一胃特異的に使われているのは面白い。他にも私たちの肝臓にしかない脂肪酸合成酵素が皮膚に発現して毛に油を供給している点など、本当に物知りになる。先週は他にもハダカネズミのゲノムも報告された。ハダカネズミはほとんどがんが発生しない動物であることが確認されている。しかし低酸素環境で生きるために癌抑制遺伝子のp53機能が低下している。この矛盾する課題をどう解決しているか、スリリングな物語が展開しており、ゲノムからだけでも多くのことがわかる。これらゲノム研究の結果を理解するためには、もう一度発生過程を眺め直す必要がある。最初に挙げたヘッケルの言葉は、生命研究が異なるレベルの情報統合を目指す研究であることを予言している。進化と発生、ゲノムとエピゲノムだ。生命科学も異分野との統合を進めないと時代について行けないだろう。トップジャーナルがいいとは言わないが、しかし1年論文を眺めていて様々な動物のゲノム研究での我が国のシェアは極端に低い気がする。是非推進策を再検討して欲しい。

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