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6月11日:マウスとヒトの能力を同じ課題で評価する(アメリカアカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2014年6月11日
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「実験動物で得られた研究結果は人間にも役に立つ」は決まり文句だが、本当にそうかなかなか確かめることは難しい。特に脳機能となると、心の奥では「動物と人間は比べようがない」と考えるのが普通だ。この常識から考えると、今日紹介する論文は面白い。人間とマウスの能力を同じ課題を課して試す、この実験系を思いついたことがこの研究の全てだ。ボストンMITとハーバード大学グループの研究で、論文はアメリカアカデミー紀要オンライン版に掲載されている。タイトルは「Immersive audiomotor game play enhances neural and perceptual salience of weak signals in noise(バーチャル聴覚運動ゲームで遊ぶと雑音の中の弱いシグナルピークに対する神経反応と聴覚を促進する)」だ。さてどのような課題か?マウスの方から見てみよう。45X65cmのスペースにネズミを置いて、標的を探させるのが課題だ。標的は見えるわけではなく、聞き分ける標的で、特定のシグナル音が雑音なしに聞こえる場所が標的だ。この標的からはなれるに連れて雑音が増えるように設計している。マウスはあらかじめシグナルだけの場所を目指す様報償反応で訓練しておく。マウスは最初雑音ばかりの場所に置かれるが、ノイズの中のかすかなシグナル音を頼りにノイズを減らそうと動いているうちにシグナルだけしか聞こえない標的に到達する。当然訓練を繰り返すと到達時間は短くなる。では同じ課題を人間に課すにはどうすればいいのか?「テレビゲームでネズミになり切ってもらう」が答えだ。被験者はテレビの前に座ってコントローラーで画面上のネズミの動きを操作する。実際のネズミの聞く音と同じ音が画面上のアバターの位置に応じてヘッドフォーンから聞こえるように設計されている。これで、かすかなシグナル音を頼りにノイズの少ない場所を探すと言う、ネズミと全く同じ課題を人間も共有できる。面白い。後は訓練で何が変わるかだが、幸い人間はネズミと大分違うようだ。人間は訓練すると標的のある方向を早く見つけるようになってくる。一方ネズミは訓練することで動き回るスピードを早くなる。言って見れば動体聴覚を上げる様訓練される。まあ、人間の方が確かに賢そうだ。いずれにせよネズミもヒトもノイズの中でシグナルを拾う能力が訓練で高まることは確かだ。この神経的基盤はネズミであれば脳に電極をさして調べることが出来る。実際、聴覚野ではノイズに対する領域全体の反応を抑えて、シグナルの感受性を高まるよう訓練で神経ネットワークが変化している。おそらくヒトでも同じだろうと納得する。しかしここで満足しないのが立派だ。この訓練を受けた人達が雑音の中で言葉を拾う能力について検査して、このゲームでこの検査の成績が格段に良くなることを示している。大変楽しい論文だった。実を言うと私も難聴に煩わされており、今年の始め補聴器を買った。しかしシグナルとノイズの両方が増幅されるのが問題だ。この論文を読むと、このゲームは私にも役に立ちそうだ。早く販売されることを願う。

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