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7月31日 新型コロナウイルスに関するGOOD NEWS !!

2021年7月31日
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またまた急速にCovid-19感染数が上昇し、せっかくオリンピックで盛り上がっているのに、我が国全体に重い空気が漂っている。幸い私たち高齢者はワクチン接種を済ませた結果、今のところは安心で、私も精神的自由を謳歌しているが、もし感染者がこのままで続くと、新しい変異発生や、免疫低下など、懸念材料は多い。

しかし、このブログでずっと強調してきたように、今回のパンデミックでは、あらゆる問題に科学は迅速に対応し、力強く答えてきた。最もわかりやすいのが、今やほとんど慎重な意見を語る人がいなくなったワクチン の科学だが、他にもメインプロテアーゼに対する内服薬の開発など、今年中にcovid-19が本当に風邪と同じと言えるようになると予想している。

そこで、我が国首相がすが(菅)るしかない科学者が、口をひらけばネガティブニュースと言う風潮を吹っ飛ばす意味でも、今日から2回に分けて科学から発せられたCovid-19についての重要な、しかし、ポジティブなメッセージを紹介しよう。

現在漂っている重い空気の一つの源は、インド型と呼ばれるデルタ株の急速な拡大で、これ自体は変異ができてしまうと、拡大を防ぐのは難しい。しかし、メディアで伝えられているように、ワクチンを接種すればδ株にも十分対応できることはわかってきている。

ビオンテックやモデルナワクチンで誘導できる中和抗体活性は、武漢型に対するそれの十分の一と言われているのに、なぜ感染や重症化を防止できるのか?免疫学をかじっておれば誰だって、それがT細胞による細胞性免疫の効果であることはわかるのだが、Covid-19でそれを示すのは難しい。

もちろんインド型の流行は始まったばかりで、これに対するT細胞の反応まで調べた論文は流石に見つからないが、基本的にT細胞免疫は変異に左右されないことを示す論文が、covid-19に関する細胞性免疫研究ではトップを走っている米国のラホヤ免疫学研究所から7月1日Cell Reports Medicineにオンライン掲載された。

この研究では、回復患者さんおよび、ビオンテックor モデルナのワクチン接種者について、武漢型および4種類の変異株(英国型、南アフリカ型、ブラジル型、およびカリフォルニア型)のスパイクアミノ酸配列をもとに調整したペプチドプールを準備し、それぞれに対するCD4およびCD8T細胞の反応を調べている。ワクチン接種者に関しては、接種後2週間目のT細胞の反応を調べている。

方法などの詳細は全て割愛し、ワクチンの効果のみに絞って紹介する。残念ながら、T細胞の反応も、抗体と同じで個人差は大きい。したがって、当然、人によってはワクチン接種したのに感染したと言う話になる。このリスクについては、ワクチン接種者の綿密なコホート研究を待つしかないだろう。

大事なことは、mRNAワクチンで、スパイクの様々なペプチドに対する免疫が誘導できること、そして武漢型でも変異型でも、その反応は大体同じと言う結果だ。これは、mRNAワクチンを接種した1人の人が大体10種類のスパイク由来ペプチドに反応できることから、変異により1−2のペプチドに対する反応が起こらなくても、他のペプチドに対して反応が残るために、変異型にも対応できることになる。

だとすると、デルタ型に関しても同じことが言えるので、現在のmRNAワクチンで、T細胞免疫に関しては十分対応できると言う結果だ。

次のgood newsは、SARS-CoV2と同じ仲間のコロナウイルスなら、ほとんど全てに効果があるモノクローナル抗体の開発が加速していることだ。

最近菅首相は、ワクチンとともにリジェネロンが開発した抗体カクテルにすがっているように見えるが、もっと未来を見た発言もできるよう、取り巻きも努力して、もう少しかっこいい指導者を演出すべきだろう。会見は見ているだけで気が滅入る。

難しい話になるが、スパイク分子は3個集まって、3量体をつくっていおり、ホスト細胞と反応が始まる前はプレフュージョン型という構造をとっている。この構造を安定化させてワクチンに使っているのが、ビオンテックとモデルナで、できた抗体は、スパイクに蓋する形で、その後ACE2と結合する部分が分子表面に出てこないようにして効果を発揮するので、多くの変異体にも一定の効果があると思う(これは確かめていないので個人的意見として聞いてほしい)。

このスパイク3量体が細胞側のACE2と結合する時、3分子全体が反応するのではなく、一個の分子の受容体結合ドメイン(RBD)が飛び出してきて、ACE2と結合、それによってスパイクのS1とS2が切り離されるきっかけを作る。こうして切り離されたあと、今度はS2部位が伸びて相手型の細胞へ突き刺ささり、細胞膜の融合がおこることで感染が成立する。

この最初の過程で飛び出してくるSIIと呼ばれるRBD部位は、SARSやcovid-19をはじめsarbecovirus科のコロナウイルスで保存されており、またこの部位が変異すると、機能が失われる確率が高い。

このプレフージョン型3量体では隠れているSIIRBDに対するモノクローナル抗体は、Covid-19だけでなく、SARSをはじめ様々なsarbecovirusに反応できることから、今後現れる様々な変異体に対しても効果を示す可能性があり、SIIに対するモノクローナル抗体開発が続けられてきた。おそらく一番乗りしたのは、GSKがヨーロッパで緊急使用許可を得たsotrovimabだと思う。

今日紹介したいワシントン大学からの論文は、同じSIIに対するモノクローナル抗体S2X259についての研究で、市場化と言う意味では少し遅れているが、効果のレパートリーから、SII RBDとの結合の構造解析まで、なるほど備蓄して将来の感染にまで備えられる抗体として期待できることがよくわかるだけでなく、ポストコロナのワクチン開発についてもヒントが示された素晴らしい研究だと思った。

まず、S2X259はこれまでのSII RBDに対する抗体以上に広い範囲のsarbecovirusを中和することができ、なんとコウモリ特異的なsarbecovirusにも効果がある。

これは、抗体のH鎖、L鎖の可変部全体を動員して、SII RBDの広い範囲にわたってスパイクと結合することができるためで、その結果G504の変異を除くと、ほとんどの変異に対して抵抗性を維持している。したがって、δ株を含む、現在存在するほとんどの変異に対して効果を示す。

あとは臨床研究が残っているだけだが、covid-19の変異体に対応するという点では、リジェネロンの抗体カクテル、GSKのsotrovimabも、かなり広く変異体をカバーできるので、この抗体が絶対必要というわけではない。

この研究の重要性は、SII RBDを標的にした抗体が、ほとんどのsarbecovirusに効果を示す点で、今回のパンデミックが収束したあと、新たなsarbecovirus科のコロナウイルスが現れた時も、この抗体ですぐに対応できる可能性がある点だ。備蓄抗体という新しい可能性が生まれるかもしれない。

さらに、今回のワクチン開発競争ではプレフュージョン型を抗原にするワクチンが大成功を収めたが、将来sarbecovirusならどんな新しいウイルスにも対応できるワクチンを設計することが可能であることをこの研究は示してくれた。最初紹介した論文で、T細胞反応はスパイクだけでなく、不思議なことにnsp3にも起こりやすい。T細胞を狙ったワクチンとともに、どんなsarbecovirusにも対応できる万能ワクチンも決して夢ではない。

科学はCovid-19の次を見つめて力強く歩んでいる。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    またまた”緊急事態宣言”です。
    科学の力でワクチン、治療薬を開発し、インフルエンザと同じように共存を目指さないと。。。。

    もうそろそろ、皆さん我慢の限界では?

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