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6月22日:種の分化:好みか環境か?(6月20日号Science誌掲載論文)

2014年6月22日
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ダーウィンの進化論では、種間に生じた多様性の中で、生殖能力(即ち子孫を残す能力が高い形質)を持つ個体が選ばれて新しい種を創るとされている。この際の選択の基準は専ら環境への適応の観点で決まるとされて来た。しかし脳が関わりだすと話は簡単ではない。例えば、世界各地に中国人街や時によっては日本人街がある。このことは人間自体が作り出した言葉や習慣が、人間自身の生殖行動を規制することを表している。皮膚の色による人種差別もそうだ。深読みすればこれに似た問題を研究しているのが今日紹介するスウェーデンウプサラ大学からの論文で10月20日号のScience誌に掲載された。タイトルは「The genomic landscape underlying phenotypic integrity in the face of gene flow in crows(遺伝子の流入があっても形質の安定性が維持される過程に関わるゲノム背景)」だ。わりと世界中を旅しているので、私も黒くないカラスが世界中にいることは知っている。しかしヨーロッパに2年以上滞在し、その後幾度となく長短の訪問を繰り返したにもかかわらず、ヨーロッパのからすは2種類に分かれていて、例えばドイツには黒いからすしかいないが、ポーランド国境近くからポーランド、スウェーデンには頭と羽が黒く、残りは灰色のカラスが中心になるとは知らなかった。この2種類は、種が分かれているかどうかの境目で、両方の重なる生息域では交雑があることがゲノムからわかっている。これまでのゲノム研究からも、両者のゲノム上のちがいはほとんどないことが明らかになっていた。ではなぜ見た目にはっきりと区別がつく2種類の性質が維持されるのか?これを研究するために、両者が重なる生息域及び分離が進んだ生息域からカラスを60羽集めそのゲノムを読んで比べている。専門的な話は全て飛ばして結論をまとめると次のようになる。予想通り、両方のカラスのゲノムは極めて類似しており、一塩基レベルの変異SNPも900万種類弱見つかるが、そのほとんどはどちらかのカラスに特異的と言うわけではない。しかし全ゲノムを見て行くと、この900万弱のSNPの中に、分布がどちらかに大きく偏るものが80個前後見つかる。これを詳しく調べると、そのほとんどが羽のパターンを決める色素細胞の活性や分布に関わる遺伝子と、視覚に関わる遺伝子の近傍に集中している。この分離がはっきりした遺伝子部分を指標にカラスの系統関係を調べると、両方のカラスの性質を系統的に完全に分離できると言う結果だ。パターンを認識する視覚機能と、見られるパターンを造る色素形成能力に関わる遺伝子が変化することで、戻すことが出来ない認識パターンの分化が始まっているようだ。ウソみたいなよく出来たシナリオだが、環境より自分の身体自体が種分化の選択圧として働き始めている一つの例かもしれない。とは言え両方が重なる生息域では交雑が起こっているようで、この様な分離が進んだ部位にも一定の遺伝子流入を見ることも出来る。まだまだ身体的交雑可能性が残っている点でも私たちの皮膚の色に対する傾向と同じだ。カラスは賢くてヒトに近いと言うが、この先に私たちの克服すべき性(さが)の進化が理解できるかもしれない。
  1. 小澤幸重 より:

    進化の最大の問題は個体発生の現象が、なぜ万年単位で繰り返され進化に至るのかであろうが、確かな議論はない。
    これを保証するのは環境と生物共通の原則である。その原則はいろいろあるが、その一つが「嗜好性」であると考えている。この点の議論がここにきていくつか出てきている一つとして注目している。

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