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7月2日:上咽頭がん治療薬をゲノムから探る(Nature Genetics6月22日号掲載論文)

2014年7月2日
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上咽頭がんは一種風土病とも言えるがんで、東南アジアや中国に多いが、我が国にはまれながんだ。噛みタバコの習慣と深く関わり、またウィルス(EBウィルス)の関与が早くから指摘されて来た病気だ。この様な欧米に少ない病気のゲノム研究はどうしてもアジアで行う他なく、この研究もシンガポールを中心とするグループにより行われた。うれしいことに、がんゲノムに関しては我が国の第一人者京大の小川さんもしっかり参加している。世界中から頼りにされているのだろう。「The genomic landscape of nasopharyngeal carcinoma(上咽頭がんのゲノム)」とタイトルがついた論文は6月22日号のNature Geneticに掲載されたもので、一言で言うと上咽頭がんのゲノム研究だが、治療薬を探そうと言う強い意志を感じる研究だ。研究では、上咽頭がん128例のエクソーム、全ゲノム、必要に応じて発現しているRNAを調べ、上咽頭がんの原因になる遺伝子変化を同定するとともに、その結果をもとにがんの生物学を行っている。まず、このがんでのウィルスの関与は、例えば子宮頸癌のパピローマビールスなどとは全く異なるメカニズム、即ち遺伝子発現調節に関わる染色体構造調節を通して関わっているようだ。これとパラレルにエピジェネティックスに関わる様々な遺伝子の変異が認められる。結果として、mycと呼ばれるがん遺伝子の発現が上昇している。さらにこの研究の特徴は、発見した個々の遺伝子の機能をしっかりがん細胞の遺伝子操作を通して確かめている点で、ARID1A, BAP1などの欠損ががん発生に重要であることが証明されている。これに加えて、化学化合物が既に開発されている様ながん増殖に関わるシグナル経路を変異遺伝子から探索することも行っている。この結果、ERBB2/3分子とその下流のシグナル、及びオートファジーに関わるATGファミリー分子、細胞分化に関わるSYNE1, Notchなどの遺伝子変異がこのがんの増殖に関わる可能性が高いことを示している。この論文のうれしいのは、幾つかの経路についてどこまで薬剤開発が進んでいるかも一目で分かるように示している点で、この論文を読む医師やその患者さんには朗報になること間違いない。これまでのがんゲノム研究から一歩進んだ、お手本になる研究だと思う。何度も繰り返すが、がんゲノムを知ることは戦う相手を知ることだ。我が国の医療機関で患者さんががんを知って戦える日が一日も早く来る様努力したいと決意を新たにした。

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