現在、世界中で腸内細菌叢とガン免疫との関わりを調べる研究が加速しており、慶応大学医学部の本田さんは、ヒトの膨大な細菌叢の中から、ガンのチェックポイント治療を高める細菌セットを分離することに成功している。このような現象が起こるのは、細菌叢と免疫系をつなぐ自然免疫細胞innate lymphoid cell(ILC)、特にILC3の存在が大きい。
今日紹介するコーネル大学からの論文は、主にマウスモデルを用いて大腸ガンでのILC3の役割を調べた研究で、9月16日号のCellに掲載された。タイトルは「Dysregulation of ILC3s unleashes progression and immunotherapy resistance in colon cancer(ILC3の調節異常によって大腸ガンの増殖と免疫治療抵抗性が高められる)」だ。
ILC3は京大時代に、当時、大学院生だった本田さんや助手の吉田さんたちが特定したパイエル板組織のinducer cell に一番近いILCだが、当然腸組織で多く存在している。この研究では最初からILC3が直腸ガンでどうなっているのかに焦点を当てており、フローサイトメトリーを用いてガン組織を調べている。
結果は明瞭で、ガン組織ではILC3が低下し、逆にILC1が増加している。この原因を探っていくと、ILC3がリプログラムされてILC1へと分化してしまうことが明らかになった。また、これと同時に腫瘍組織のtype1免疫反応細胞が減少していることがわかった。
この結果はILC3細胞が直接type1免疫細胞の維持に関わり、ILC3減少によりTH1が低下した可能性も否定はできないが、本田さんたちが示したようにILC3が持つ細菌叢との相互作用を介して、2次的にtype1免疫反応細胞が減少している可能性が強く示唆される。
そこで、ILC3特異的にクラスIIMHCをノックアウトしたマウスを作成して、腸内細菌叢を比べると、対照に比べて細菌叢が大きく変化している。そしてこのノックアウトマウス由来CD4T細胞を大腸ガンマウスに移植すると、同じようにtype1免疫細胞が局所で減少し、また同じマウスからの便移植でもtype1免疫細胞の減少が見られることがわかった。以上のことから、ガン局所でのtype1免疫反応の低下は、まずガン発生によりILC3が低下し、この結果type3免疫細胞との相互作用起こらなくなり、それが細菌叢の変化を誘導して、最後にtype1免疫反応を低下させるという複雑な過程を反映していることを示している。
事実、ILC3のMHC-IIをノックアウトしたマウスでは、実験大腸ガンマウスモデルで、体重減少が促進し、また良性ポリープ数こそ減少するが、悪性のガンの発生は促進していることがわかり、ガン免疫に腸内ILC3が維持されることの重要性を示している。
これまで、炎症性腸疾患でもILC3細胞が低下する事が知られているが、患者さんからの腸内細菌叢はILC3が低下したマウスの細菌叢と同じ様にチェックポイント治療に対する抵抗性を誘導することも示している。
以上、大腸ガン発生でなぜILC3が低下するのか(仮説としてはガンストローマ細胞のTGF-βやIL-23が働いていると考えられている)、また実際にはどの細菌がチェックポイント治療抵抗性に関わっているのかなど、トランスレーションのためにはまだまだ実験が必要だが、細菌叢とガン免疫をつなぐメカニズムが徐々に明らかになっているのを実感する。