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7月5日:慢性ベリリウム症=自己免疫病(7月3日Cell誌掲載論文)

2014年7月5日
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最新の論文を読んで懐かしく感じることは滅多にないが、この論文を読んで40年前の思い出に浸ることが出来た。京大胸部疾患研究所で研修を初めてすぐに、当時講師の泉先生がK社社員に発症した慢性ベリリウム症を発見した。その後も何人かの発症が続いたため、工場内でベリリウムに暴露されて起こる職病と認定して、様々な検査を行った。背景にベリリウムにより誘導されるアレルギーが疑われたため、ベリリウムに対する皮膚テストを行ったところ、患者さんだけが強い反応を示す。皮膚に水泡が出来る程強いので、代わりの免疫検査として試験管内のリンパ球刺激反応を試した。驚くことに、対照に使った自分や、同僚のリンパ球は培養にBeSO4を加えると元気がなくなる。おそらくBeSO4が金属として持つ毒性のせいだろう。しかし患者さんのリンパ球はそれに反応して増殖する。本当に驚いた。なぜこのような小さな金属に対してTリンパ球が反応できるのだろう?なぜ暴露した肺に進行性の肉芽が出来るのだろう?興味は尽きなかったが、もちろんそれ以上追求することはなかった。40年経って、その時の疑問に全て答えているこの論文にであうことが出来た。しかも私よりずっと年上のT細胞研究者Kapplerの研究室からの論文だ。免疫学を始めた頃、ずいぶん彼の論文を読んだ。その意味で2重に懐かしい気持ちになった論文だ。前置きが長くなったが、「Structural basis of chronic beryllium disease: linking allergic hypersensitivity and autoimmunity (慢性ベリリウム症の分子構造的基盤:アレルギー性過敏症を自己免疫と結びつける)」とタイトルのついた論文は7月3日号のCell誌に掲載された。まずベリリウムに反応するのはHLA-DP2と言う限られた組織適合抗原を持っているヒトだけで、ベリリウムは自分が発現しているタンパク質由来のペプチドと結合した形で初めてT細胞を刺激できることがこの論文以前に明らかになっていた。この論文では、なぜ特定の自己ペプチドだけがベリリウムと結合できるのか、ベリリウム特異的T細胞はどのような分子構造を認識しているのかについて、蛋白の立体構造を詳しく調べて読み解いている。蛋白構造の詳細については私も完全に理解できているわけではないが、結論をまとめると次のようになる。HLA-DPと自己ペプチドが結合して出来るポケットにベリリウムとナトリウムがすっぽりと収まると、このポケット構造がベリリウムを内部に取り込んで閉じた形を作る。このHLAとペプチドがとる新しい蛋白構造をT細胞は認識し、ベリリウム自体を認識しているわけではない。ただ、こうして出来るHLA-自己ペプチドとT細胞レセプターの結合は、他の抗原とレセプターには見られないほど例外的に強い。このため、慢性の反応が続く進行性の病気になると言う結論だ。とすると、慢性ベリリウム症はベリリウムに対する反応ではなく、ベリリウムによって変化した自己蛋白に対する自己免疫反応になる。なぜ暴露しても、3%位の人しか病気にならないのか、なぜT細胞がこの様な小さな金属に特異的に反応できるのかなど、全て納得できた。40年来の疑問に答えてくれたKapplerさんに感謝。

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