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9月9日 新型コロナ感染予防の社会実験を検証する(8月19日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2021年9月9日
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我が国でもTVで専門医がステイホームやワクチン接種を呼びかけるキャンペーンを流しているが、一方で緊急事態宣言がでても、人の流れが低下しないことも報道されている。しかしこの矛盾だけから、キャンペーンの効果がないとは結論できないし、ましてや緊急事態宣言の影響も、正確に評価しようとどれほどの努力が行われているのか、少なくとも論文という形では見えてきていない。

ブルームバーグNY市長時代、政策の効果を誰も読まない内部レポートではなく、査読のある論文としてまとめろと命令し、彼の在任期間に300以上の公衆衛生に関わる論文が発表されたことをレポートした論文を、以前紹介したことがあるが(https://aasj.jp/news/watch/891)、世界規模の感染症に政府が行った介入の効果についても、世界に役立つ形で検証され発表される必要がある。

例えば、英国がロックダウン解除前に、数千人規模のロックコンサートを許可して、ワクチンや検査の効果を調べたことが報道されていたが、いつかトップジャーナルにこの社会実験の論文が発表されると予想している。

今日紹介するハーバード大学からの論文も、感謝祭とクリスマスで人が旅行するのをFacebookを通して流した、医師と看護師のStay Homeの訴えが、どの程度の効果があるか検証した研究で、8月19日号のNature Medicineにオンライン掲載された。タイトルは「Effects of a large-scale social media advertising campaign on holiday travel and COVID-19 infections: a cluster randomized controlled trial(大規模なSNSを通したキャンペーンが国民的休日の旅行とCovid-19感染に及ぼす影響:クラスターごとの無作為化対照試験)。

この研究では、covid-19の感染者が正確に把握でき、またスマホの記録から得られているFacebook Movement Rangeデータベースによる人の移動距離が把握できる地域を選んで、それを無作為的に二分し、同じキャンペーンを一方には高い頻度で(High intensity,大体3/4の人の目にとまる)、もう一方には低い頻度(Low intensity 大体1/4に伝わる)でキャンペーンを流す地域を分け、それぞれの行動や感染状況を調べている。

結果だが、

  1. 自宅からの移動距離は、感謝祭やクリスマス休暇が近づくほど、どちらの地域でも低下しているが、High intensity 地域の方が大体1%ほど低下が大きい。
  2. 自宅にとどまるstay homeが守られているかを見ると、大体3/4の人は何らかの形で外出しており、この数にキャンペーンは影響がない。
  3. このように、移動距離では小さな変化だが、covid-19の感染者数を見ると、キャンペーンを流さなかった地域と比べ、2週間ほどして感染者数が一時的に落ち込みが見られた。ただ、この変化はHigh intensityとLow intensity地域で差はなかった。
  4. この変化に、共和党支持、民主党支持は影響ない。

以上が結果で、これを有効とみるか、効果は低いとみるかは、感染抑制の目標によっても違うだろう。しかし、最初から治験登録を行い、その効果を論文として発表し、世界中でデータをシェアすることが、科学を重視する社会での社会実験であることを示した点で、高い意気込みの研究だと思う。もしこのような研究が我が国で進んでいないとするなら、その根っこに我が国の科学力低下と共通の原因があるように思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    裏で、こんな社会実験が組まれていたとは!
    日々の政策が正に実験になるのが社会科学!
    データ解析、分析、フィールドバックで、
    最適解=政策を探り当てる!

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