新しくニューヨーク市長になったデブラシオ氏は黒人の奥さんのいること、一貫したリベラル政策などで話題を呼んでいる。特にその庶民性から、富裕層の典型だった前職のブルームバーグ氏と対比され、全米中が興味津々だ。同じようなことになれば日本でも大騒ぎだろう。しかし、新しい都知事候補の名前としてメディアに上がる名前を聞くと、まあこんな熱狂は望みようもない。
今日紹介する論文を見るとアメリカの底力にさらに驚いた。論文はEvidence Use in New York City Public Health Policymaking (NY市公衆衛生政策へのエビデンスの利用)」というタイトルのコロンビア大学からの仕事で、Frontiers in Public Health Services and Systems Researchという雑誌に先週掲載された。短い論文で、ブルームバーグ市長の公衆衛生政策の成果を聞き取り調査で調べた論文だ。論文自体はシンクタンクの意見と言った感じで他愛無い。しかし、ブルームバーグが押し進めた公衆衛生政策については(それが本当なら)感心する。要するに科学的エビデンスを重視した政策を行ったということだが、その徹底ぶりは我が国とはだいぶ異なる。論文であげられた政策の5本の柱は以下のようだ。
1)公衆衛生政策担当者は論文の見出しやサマリーだけでなく、あまり有名でない論文の方法論や項目ごとのデータにもしっかり目を通すことを推進。(日本の自治体の役人がどのぐらい生の論文を読んでいるのだろう?)
2)地域レベルの健康データを出来る限り集めて対策を打つ。例えば、ある地域でのタバコの消費が上がっていることがはっきりしたらすぐにキャンペーンを打つ。
3)地域住民に対して具体的に役に立つ政策のために、小規模の調査を積み重ねる。例えば、NY市は他地域と比べ外食が多いことがわかると、レストランの健康メニューのサンプルをNY中のレストランに送る。
4)部局間の風通しを良くして政策を実行する。例えば、健康のため自転車使用を推進するとき、各道路の自転車事故率がすぐわかり、それに会わせて道路局が道路の改善や自転車レーンを整備する。
5)公衆衛生担当部局に査読がある雑誌に論文を出すことを推進し、就任期間中に300以上の論文が発表された。
経営者としてのブルームバーグならではの思想の一端を示す政策だと思う。しかし、これは日本の自治体でも可能で、行うかどうかは首長の意志一つだろう。厚生労働省の号令のもと、我が国の自治体でも特定検診等様々な市民の健康を促進するための政策が行われている。ただこの論文に紹介されているNYの取り組みと比べた時、中央主導でほとんど自治体としてのアイデアが見えない。特に見習わなければならないのは、最後の柱だ。自治体行政からしっかりした論文が生まれるということは、自治体自体がしっかりとしたシンクタンク機能を持つということだ。私の持論だが今我が国に最も必要なのは、国や自治体自体が政策立案のためのシンクタンクとしての自らの能力を磨くことだ。その意味で、5番目の目標はどの自治体にとっても挑戦する意味は大きい。ただ、査読を受けて批評にさらされる論文でなければならないと釘を刺しておく。
前NY市長の健康政策評価(Frontiers in Public Health Services and Systems Research誌掲載論文)
2013年12月23日