AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 9月12日 コロナウイルス感染のエピジェネティックス(9月3日号 米国阿アカデミー紀要 掲載論文)

9月12日 コロナウイルス感染のエピジェネティックス(9月3日号 米国阿アカデミー紀要 掲載論文)

2021年9月12日
SNSシェア

リンパ球の免疫記憶やマクロファージの免疫トレーニングのcovid-19への関与を見ていると、当然のことながら、新型コロナウイルス感染やサイトカインストームと、エピジェネティックスの論文を紹介していても良さそうなのだが、これまで紹介する機会はなかった。

今日紹介するミシガン大学からの論文は、タイトルにSETDB2と呼ばれるヒストンメチル化酵素が記載されており、これはエピジェネティックス論文だなと、取り上げることにした。タイトルは「Coronavirus induces diabetic macrophage-mediated inflammation via SETDB2(コロナウイルスはSETDB2を介して糖尿病患者のマクロファージの炎症を誘導する)」だ。

肥満、糖尿病、そして老化の背景にインフラマゾームを介する炎症があることは何度も紹介したが、高齢者や糖尿病、肥満などの基礎疾患がある人はcovid-19感染により重症化しやすいのは、この慢性炎症が関わると考えられてきたが、明確な分子基盤を特定するまでには至っていない。

この研究ではサイトカインストームで上昇するサイトカインを調整するNFκb結合領域がH3K9ヒストンにより抑制されているのに着目し、H3K9のメチル化に関わるSETDB2の発現を、covid-19感染者からマクロファージを採取して調べると、他の病気でICUで治療を受けている患者さんのマクロファージと比べて、SETDB2の発現が強く抑制されていることに気づく。また、マウスに肝炎コロナウイルスを感染させる実験でも、同じようにマクロファージのSETDB2発現が低下していることがわかった。

ではSETDB2が炎症に関わるのかを調べる目的で、マクロファージ特異的にSETDB2をノックアウトする実験を行い、SETDB2ノックアウトマクロファージでは、コロナウイルス感染によりTNFやIL6の分泌が強く亢進することを示している。また、骨髄マクロファージにウイルスを感染させると、これらサイトカインの調節領域に結合しているH3K9が低下していること、すなわちSETDB2によるメチル化が低下していることを示している。

次に、SETDB2の発現を誘導するシグナル経路を解析し、通常ウイルス感染で最初に誘導されるIFNβによりマクロファージが刺激されると、Jak1/Stat3を介してSETDB2の発現が誘導されることを示している。すなわち、covid-19重症者では、この経路がうまく働かず、SETDB2が低下し、これがNFκb依存性のサイトカイン調節を高める結果を生んでいると結論している。

最後に、糖尿病とSETDB2との関係を調べ、

  1. 糖尿病患者さんではもともとSETDB2のレベルが低いこと。
  2. その結果感染により、INFやIL6などが上昇しやすいこと。
  3. TNF, IL6調節領域でのSETDB2結合を調べると、糖尿病で元々低く、感染によりほとんど結合が失われること。

を示し、少なくとも糖尿病でサイトカインストームが起きやすいのは、SETDB2の機能不全が起こっているからだと結論している。

以上をまとめると、1型IFNのシグナルがウイルス感染により伝わりにくくなる結果、SETDB2の発現が低下し、サイトカインストームが起こりやすい状態になることが重症化の一因であることが示唆される。そこで最後に、IFNβを投与する実験を行い、期待通りSETDB2の発現が戻っている。ただ、有意差はあるとしているが、サイトカインストームを抑える効果は、明らかだとは私には思えない。

以上が結果で、最後は少し尻すぼみといった感じだが、しかし糖尿病と局所の炎症をつないでいくエピジェネティックス研究は今後も重要だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    #yiv9863404578 * {
    margin:0;font-size:13px;font-family:’MS Pゴシック’, sans-serif;}
    #yiv9863404578 a {
    color:#0064c8;text-decoration:none;}
    #yiv9863404578 a:hover {
    color:#0057af;text-decoration:underline;}
    #yiv9863404578 a:active {
    color:#004c98;}

    1型IFNのシグナルがウイルス感染により伝わりにくくなる⇒SETDB2の発現が低下⇒
    サイトカインストームが起こりやすい状態になる⇒重症化の一因であることが示唆された。
    Imp:
    コロナ重症化機構の一端。
    経口治療薬、ユニバーサルワクチンの一日も早い登場をお祈りしております。

  2. YH より:

    免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象の病態と管理、CAR-T療法のサイトカイン・ストーム研究と管理の研究で免疫と炎症の表裏一体の病態が明らかになりつつある。間違っているかもしれませんが、近い将来ウイルス感染で二次的に生じる病態の治療が改善されると思っています。語弊があるかもしれませんが、専門家といわれる先生方の思考範囲が狭いように感じています。広い視野が必要な気がします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.