セロトニンというと、すぐに脳での働きを思い出すが、実際にほとんどのセロトニンは腸内で作られ、血中に放出されるとセロトニントランスポーターを発現している血小板に取り込まれる。脳での働きと異なり、全身でのセロトニンの機能はあまり注目されていないが、例えば胃の収縮、腸の蠕動などを刺激したり、損傷や炎症部位に集まってきた血小板から遊離されて、修復機構や炎症に関わることも知られている。
この論文を読むまで全く知らなかったが、さらに細胞内に取り込まれたセロトニンはトランスグルタミナーゼを介してヒストンの修飾に関わり、エピジェネティックな遺伝子発現調節にも関わっていることが最近注目されているようだ。
今日紹介するチューリッヒ大学からの論文は、末梢でのセロトニンがガンの増殖に関わるのではと、マウスモデルを使って調べた結果、ガンに対するキラー細胞の活性調節にセロトニンが一定の作用を持つことを明らかにした研究で、9月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Attenuation of peripheral serotonin inhibits tumor growth and enhances immune checkpoint blockade therapy in murine tumor models(末梢のセロトニンを減らすことでマウスの担ガンモデルでガンの増殖を抑えチェックポイント治療を高める)」だ。
上に述べたように、脳以外ではセロトニンはG共役受容体を介して細胞を刺激するとともに、トランスポーターを介して細胞内に取り込まれて、遺伝子発現を調節する2つの経路で働く。
この研究ではまず、末梢でのセロトニン合成ができなくなったマウスに膵臓や大腸ガンを移植しその増殖を調べると、もちろん根治はできないが、ガンの増殖がかなり押さえられることを明らかにする。これは、セロトニンがガンに直接作用している可能性も排除はできないが、調べていくとガンの周りに集まってくるCD8キラー細胞の数が、セロトニン合成が欠損したマウスでは上昇していることを発見する。
試験管内でキラー細胞をセロトニンで刺激すると、抗原特異的なキラー活性や、炎症活性が抑えられることから、セロトニンのガン抑制効果の一因は、ガンに対するキラー細胞の増殖と活性を高めることであることがわかる。
一方、ガン自体もセロトニンによりチェックポイント分子PD-L1が強く誘導させることも発見している。このメカニズムを調べると、ガンのトランスグルタミナーゼ2阻害により抑えられるので、最近注目のセロトニンによるヒストン修飾による転写の変化を反映していると結論している。
実際、データベースから多くのガン細胞のトランスグルアミナーゼ発現と、PD-L1の発現との相関を調べると、トランスグルタミナーゼのは発現が高いガンほど、PD―L1の発現が高いことを確認している。
以上の結果に基づき、トランスグルタミナーゼ阻害剤とPD-1に対する抗体を組み合わせた治療を行うと、少なくともマウス担ガンモデルでは、それぞれ単独よりは強い効果が得られることを明らかにしている。
以上が結果で、末梢のセロトニンが、一つは受容体を介してキラーT細胞に働いて増殖や機能を抑えること、またガンに取り込まれてヒストン修飾を介して、転写を変化させ、ガン免疫の感受性を高めていることがわかった。それぞれの経路については、それぞれの阻害剤も開発されつつあるので、このような薬剤をガン免疫を高めるために用いる可能性は期待できる。
個人的には、セロトニンの意外な作用を学ぶことができた論文だった。
細胞内に取り込まれたセロトニンはトランスグルタミナーゼを介してヒストンの修飾に関わり、
エピジェネティックな遺伝子発現調節にも関わっている。
Imp:
セロトニンの意外な作用!!
セロトニン 5-HT3 受容体を介して迷走. 神経や交感神経を経て,直接もしくは CTZ を介して嘔吐. 中枢へ伝わるので、
この受容体の阻害薬は、化学療法・放射線療法に伴う“吐き気”の治療標的です。
ヒスタミン受容体は10種類以上存在します。神経に作用せず、リンパ球に作用できるものがあればこちらの経路はたたけます。一方、トランスグルタミナーゼを阻害して、ガンの転写を変える方はすぐできそうです。