一般的に腫瘍は代謝的に正常細胞とは大きく異なることから、様々な抗ガン治療とともに、食事療法などでガン細胞の代謝のアキレス腱を狙って増殖を抑えることが可能であることはよくわかっていた。例えば、glycolysisへの依存性はガンのアキレス腱として最もよく知られている。とはいえ、ガンの食事療法は、治療としての煩雑さや、特に抗ガン療法による食欲不振なども重なり、普及は進んでいない。
さらに、ガン=glycolysisといった単純なスキームで食事療法の効果を語るのは、一般の人向けにはわかりやすいが、実際には複雑な代謝ネットワークの中で捉えていく必要がある。
今日紹介するMIT、コッホ研究所からの論文は実験モデルでの食事療法の効果のメカニズムを特定することがいかに難しいかを理解させてくれる研究で、10月20日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Low glycaemic diets alter lipid metabolism to influence tumour growth (低血糖誘導ダイエットは脂肪代謝を介して腫瘍増殖に影響する)」だ。
この研究の出だしは簡単で面白い。遺伝子導入で誘導したマウスの膵臓ガンの増殖に対する食事療法の影響を調べるのだが、このとき、糖質を制限したカロリーダイエット(CR)と、糖質をほとんど抑えて、脂肪で置き換えたケトン食(KD)を比較すると、カロリー制限食では効果が見られるのに、ケトン食では全く効果が見られない現象を説明しようと試みている。
KDでは糖質を強く制限しているため、血中グルコースやインシュリン濃度は低いことから、glycolysisで説明してしまうことはできない。当然、CRとKDの大きな違い、すなわち脂肪代謝に着目することになるが、ほとんどのタイプの血中脂肪がKDでは上昇し、CRでは低下している。
そこで、試験管内でガン細胞を脂肪欠如状態で培養して、細胞の脂肪代謝を調べると、Stearoyl-CoA desaturase (SCD)により脂肪酸を不飽和化する酵素により生成される、mono-unsaturated fatty acid(MUFA)のレベルが高まっていることを発見している。
後は、様々な条件でSCDとMUFAレベルを調べているが、結果は極めてわかりにくく、不飽和脂肪酸の有り無しというより、飽和/不飽和の割合が、CRにより影響されたSCDレベルにより変化することでガンの増殖が抑えられるという結果になる。従って、単純にSCD阻害剤を抗がん剤とともに投与しても効果が見られず、あくまでもカロリー制限食が重要であるという結果だ。
以上、ガンの食事療法の難しさを理解させてくれる論文だが、結論は極めてわかりにくい。代謝とはそれほど複雑だ。
あくまでカロリー制限食が大事!
imp
単純に阻害薬の組み合わせだけでは調整できないようです。