2日間専門知識の必要な論文が続いたので、今日はわかりやすい論文を選んだ。ジュネーブ大学からの論文で、マウスを室温10度の環境にさらすと、驚くことに実験的自己免疫性脳脊髄炎が劇的に改善するという研究で、11月2日のCell Metabolismに掲載された。タイトルは「Cold exposure protects from neuroinflammation through immunologic reprogramming(低温暴露は免疫をプログラムし直して神経炎症から守る)」だ。
なぜこのような実験に至ったのかはよくわからない。例えば低温地帯で屋外労働に携わると自己免疫病が減ると言った疫学調査があるのかどうか全く知らないが、低温にすることで代謝が低下するので、エネルギーコストの高い免疫反応が低下するのではと着想したようだ。
まず10度の室温で2週間飼育すると、骨髄でのマクロファージの分化やインターフェロン誘導に関わる遺伝子の発現が軒並み低下し、骨髄でのマクロファージの生産数が低下する。さらには、末梢血中から、免疫誘導に必要な組織適合抗原を発現したマクロファージがほとんど消失していることを発見する。
すなわち免疫反応誘導が強く阻害されていることが想定されるので、低温にさらした後自己免疫性脳脊髄炎を実験的に誘導してみると、予想通りほとんどのマウスが病気を発症しない。また、低温にさらす時間を2日に減らしても、病気発症を抑制する効果は十分得られる。逆に、34度という高温で7日間飼育すると、病気が悪化する。
低温にさらされることで、体温を維持するためにアドレナリン作動性の神経刺激が起こり、褐色脂肪組織で熱が合成されるが、この結果エネルギーバランスが免疫反応に供給されないのではと、様々な実験を行っている。残念ながら、明確な代謝の変化が特定されたわけではない。もっと他の理由を考えた方が良さそうに思うが、著者らは代謝変化が免疫抑制につながっていると、少し無理な結論で終わらせている。
最後に、細胞移植で自己免疫を誘導する実験を行い、免疫誘導時期の低温が大事で、自己免疫誘導T細胞を低温暴露マウスに投与すると、低温で維持していても普通に病気が発症することを示している。
結果は以上で、メカニズムについては正直全くわかっていないと言っていい。ただ、実験的自己免疫性脳脊髄炎誘導抑制効果ははっきりしており、メカニズムが明らかになればトランスレーションの可能性もなきにしもあらずだ。ただ、低温暴露というと簡単そうに思うが、臨床的には2日間であっても、簡単な話でないだろう。いろんなことを思いつく人がいるなと言うのが印象だった。