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12月6日 糖尿病薬アカルボース(グルコバイ)の効果を抑える細菌叢(11月24日 Nature オンライン掲載論文)

2021年12月6日
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果糖の代謝など、小腸上皮は糖吸収に向けた様々なメカニズムを備えている。その一つがグルコシダーゼによる、二単糖から単糖類への分解で、これを抑えることでグルコースの吸収を抑えることが出来る。これに目をつけて、血糖の上昇を防ぎ、インシュリン分泌を抑える薬剤として放線菌から分離されたのがアカルボースで、我が国ではグルコバイとして売られている。

今日紹介するプリンストン大学からの論文は、このアカルボースの作用を不活化する酵素を、口内細菌や腸内細菌の一部が有しており、これがアカルボースの効果を減弱させるとともに、他のバクテリアの増殖にも影響し、アカルボースの副作用として知られている腸症状の原因になっている可能性を示す研究で11月24日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「The human microbiome encodes resistance to the antidiabetic drug acarbose(ヒトの細菌叢は抗糖如薬アカルボースの抵抗性を備えている)」だ。

なぜ放線菌が単糖への分解を抑える必要があったかと考えると、周りの細菌を抑えて自分が優位に増殖するためだ。当然放線菌は、自分ではアカルボースの作用を受けない防御機構が出来ており、これがアカルボースを特異的にリン酸化する酵素AcbKだ。

この研究ではまず、同じようなアカルボースリン酸酵素が人間の細菌叢の中に存在するか、ゲノムデータベースを調べ82種類の同じ活性を持ってそうな酵素ファミリーMakを発見する。

Makの一部を生化学的に調べると、ほとんど同じ活性があり、また構造的にアカルボースとの結合を見ると、同じメカニズムでリン酸化していることがわかる。さらに、この酵素を発現したバクテリアはアカルボースに対して耐性を持ち、2単糖から単糖の分解が可能で、この結果アカルボースを投与された患者さんで他の細菌を押しのけて増殖できる確率が高くなる。

当然同じ細菌は、アカルボースを不活化することで、高糖尿病薬としての活性を抑える可能性がある。これを調べるために、アカルボースを投与されたグループを含むコホート研究で調べられている便の細菌叢を調べ、Mak陽性細菌を持つ患者さんでは、Mak陽性細菌が存在しない患者さんと比べHbA1cのレベルが高く、さらに耐糖能も改善しにくいこと確認している。すなわち、Mak陽性細菌がアカルボースの効果を落とす危険があることを示している。

さらに面白いのは、Mak陽性細菌の多くが、いわゆる歯周病菌としてプラーク形成に関わる細菌である点だ。腸内細菌叢と比べても、陽性比率が際立って高い。ということは、歯周プラークを形成する細菌の中に、アカルボースと同じようなグリコシダーゼ阻害分子を形成するものが存在し、それに対する防御のためにプラーク形成菌ではMak耐性獲得に至ったのではないかと着想している。

これを証明するため、口内細菌叢ゲノムデータベースから、アカルボースに相当するグリコシダーゼ阻害分子合成経路を特定し、これらがプラーク内に存在するアクチノマイセスにより合成されていることを発見する。すなわち、歯周プラーク形成能の進化で、多くの菌が Mak遺伝子を獲得することで、アカルボース様分子を合成する菌と協力できるようになり、やっかいなプラーク形成が可能になったと考えられる。

臨床的にも重要だが、細菌叢内での競争と協調を考える意味で重要な研究だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    Mak陽性細菌を持つ患者さんでは、Mak陽性細菌が存在しない患者さんと比べHbA1cのレベルが高く耐糖能も改善しにくい。
    Imp:こんなところにも、糖尿病の原因と思われる因子が潜んでいたんですね。

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