オミクロン株の襲来で、ワクチンにより誘導された抗体や免疫反応が低下することがクローズアップされているが、免疫システムでは当然のことで、いつまでも免疫が続かないよう、一定の免疫反応の後、今度は免疫を抑えるチェックポイント機能が重要になる。ノーベル賞を授与された本庶先生のPD-1もこのような免疫抑制分子の一つだ。
とはいえ、今回のパンデミックのように免疫が持続して欲しいケースは数多い。なかでも、ガンに対する受容体を導入したキラーT細胞、CAR Tは治療に何千万円もかかっており、できるだけ長く持続して欲しい。しかし、この人工的キラー細胞も、抗原の刺激を持続的に受けると活性が低下することが知られている。当然、この低下を抑える方法の開発が続けられている。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、CAR-Tの活性を消耗させる試験管内の実験と、患者さんのデータベースを比べながら、CAR Tの消耗メカニズムを明らかにし、消耗を防ぐ方法のヒントを示した研究で、12月2日Cellオンライン版に掲載された。タイトルは「An NK-like CAR T cell transition in CAR T cell dysfunction (CAR T細胞の機能不全ではNK様細胞への転換が起きる)」だ。
固形ガン治療に向けたCAR Tの開発は、この分野の喫緊の課題になっているが、白血病に対するCAR Tと比べるとT細胞の消耗が激しい。そこで、膵臓ガンの発現するメゾセリンに対して開発されたCARTを試験管内でガンと共培養して消耗させる実験系を構築し、消耗に関わる分子機構の特定を試みている。
簡単にまとめてしまうのが気が引けるぐらい、様々な方法を使って、まさに徹底的に消耗メカニズムを検討しているのだが、結果としては、
- 消耗度と密接に相関する遺伝子群を特定することが出来る。
- これらの遺伝子は、試験管内の系だけでなく、ガン組織に浸潤しているT細胞の遺伝子発現データベースからも確認することができる。
- すなわち、CAR Tも、ガン浸潤キラーT細胞も基本は同じで、しかも試験管内の過程は実際の組織内での過程を反映している。
- Single cell RNA seqから、CAR T を抗原で刺激し続けると、キラー細胞もある程度維持されるが、それ以外の消耗遺伝子を発現する集団が、少なくとも2種類現れてくる。
通常はこのような比較で終わるのだが、この研究では新たに現れた消耗CAR T細胞がNK細胞のプログラムを高く発現していることに気づき、この点についてさらに追求し、
- NK様細胞はCAR Tから分化してくること。
- 試験管内だけでなく、生体内の実験系でもCAR Tが消耗するとNK受容体を発現すること。
- リンパ腫治療でNK受容体陽性のCAR Tが末梢血に観察されると、予後が悪いこと。
などを確認し、消耗プログラムとNKプログラムがオーバーラップしていることを示している。
そして、両方のプログラムに関わるマスター遺伝子として、ID3とSox4を特定し、それぞれの遺伝子をノックアウトすると、CAR T のNK化と消耗を防げることを示している。
徹底的に調べてなんとか臨床へ結びつく結論にたどり着いたという研究だが、ID3やSox4をノックアウトして消耗しないCAR T が実現するには、患者さんのT細胞ではなく、誰にも注射できるCAR Tを用意する必要がある。この方向での実用化研究も進んでいることを考えると、意外と膵臓ガンに対するCAR T実現も早いかもしれない。
しかし、この研究もフィラデルフィアからで、この街はCAR T 研究のメッカになっているようだ。
両方のプログラムに関わるマスター遺伝子として、ID3とSox4を特定、それぞれの遺伝子をノックアウトすると、CAR T のNK化と消耗を防げる
Imp:
CAR-Tが消耗型になると、NK細胞化するんですね。
CAR-T療法も問題になっている”再発”をなんとかクリアして欲しいです。