私が大学に入学した頃は、発生学と言えばカエルやイモリの両生類を用いた生物学が中心で、教養でも「Developmental Biology of Amphibian」を用いて発生学を習った覚えがある。もちろんシュペーマン、マンゴルトの歴史的実験が多く記載された本で、古典的研究者像が湧き出ていた教科書だったと覚えている。
しかし21世紀に入ってから、両生類を用いた発生学をトップジャーナルで目にする機会は大きく減った。様々な理由はあるだろうが、他の動物での胎児操作技術が進展して両生類を使う理由が減ったのと、職人肌の研究者を育てる場所がなくなったのが大きな理由だと思っている。
しかし「どっこいカエルは生きている」、と思える、アフリカツメガエルの胚を使った楽しい論文がUniversity College Londonから、12月8日Natureにオンライン出版された。タイトルは「Collective durotaxis along a self-generated stiffness gradient in vivo(自発的に形成される固さの勾配に沿った様々な要因が共同したDurotaxis)」だ。
タイトルのdurotaxisとは、細胞外マトリックスなどのメカニカルな固さの違いを感知して、基本的には固いマトリックスの方に細胞が移動する過程を指し、化学的分子の勾配を感知するChemotaxisと区別して使われている。
この論文は、神経堤細胞が頭部のプラコードと呼ばれる感覚器源基に移動する過程にdurotaxisが関わることを証明することを目的にしている。
まず結論をまとめると、
- 神経堤細胞がプラコードの端に移動してくると、上皮組織からなるプラコードでフィブロネクチンなどのマトリックス産生が上昇して、固さの勾配ができ、それに沿って神経堤がさらに移動する。
- この勾配は神経堤細胞がプラコード上皮と相互作用することで形成される。すなわち、神経堤細胞が勾配を誘導する。
- この移動には、Chemotaxisを誘導するSdf1も関与するが、組織の硬さ勾配が形成されないと、Chemotaxisは機能できない。
- 勾配によりRACとそれによって調節されるアクトミオシンの極性が生じて移動の方向性が決まる。
- プラコードの固さをNカドヘリンが低下させる。従って、Nカドヘリンの発現がないと固さの勾配が形成できない。
以上が結論で、書いてしまうとなるほどで終わるのだが、実際に行われた実験は、まさに職人研究者復活と言うべき実験のオンパレードだ。Sdf1を塗布したビーズを胚に導入してそのビーズを引っ張って正常より急な勾配を誘導して、正常のプラコードと競争させたり、プラコード上皮を胚から除いて神経堤細胞のランダムな移動を誘導したり、固さ勾配のあるポリアクリルアミドゲルを胚内に誘導して神経堤の動きを観察したり、その職人芸には驚かされた。
珍しく著者は2人だけだが、職人芸を研究者だけの手作りの世界が示されているので当然だろう。
若い研究者の人たちには、結論だけでなく、こんな実験の仕方もあるのだと是非論文を直に読んで欲しい。
どっこいカエルは生きている。
Imp.
アフリカツメガエルの胚発生、
最近、熱いです。
検証は必要ですが、ゼノボットのこれからが楽しみです。