現在では、自閉症スペクトラムや統合失調症の形成に、遺伝子が深く関わっていること、またその中の多くは遺伝していることは広く受け入れられるようになった。しかし、私が学生の頃、統合失調症に一定の家族性が見られるから遺伝性があると言ったため、暴行を受けた先生がいたぐらいで、遺伝性をタブーとする医師が多くいたように思う。
これまでゲノム解析によって、統合失調症と相関するSNPの数は100を遙かに超えていると思う。ただ、このほとんどは頻度の高いバリアント(common variant:CV)で、これらによる多因子支配となると、ほぼ性格と同じレベルの差になってしまう。その後、何万もの患者さんのゲノム解析が進んでくると、何千人、何万人に一人といった希なバリアント(rare variant:RV)が特定され始めた。この結果、統合失調症はCVが集まって生まれた性格的傾向の上に、RVが決定的な発病原因として後押しをすると考えられるようになった。
今日紹介するテキサス・ベイラー医大からの論文は、統合失調症をさらに重症度で分けて、RVの関与を調べた研究で12月13日米国アカデミー紀要にオンライン掲載された。タイトルは「High-impact rare genetic variants in severe schizophrenia(重症統合失調症での高い影響力のあるrare variant)」だ。
医師から見ると、統合失調症も多様だ。特に、様々な薬剤が利用できるようになって多くが社会生活を送れるようになっているが、中には治療抵抗性で長期の病院生活を強いられるケースも多い。
この研究では5年以上入院を必要とした患者さんを重症の統合失調症(実際にはDSM-5と呼ばれる診断基準で決めている)を、社会復帰可能な典型的統合失調症から分けている。じっさい、重症患者さんの平均入院年数は25年に及ぶ。
こうして選ばれた112人の患者さんの全ゲノム解析を行い、このゲノムと、変異により発生異常などが発生することがわかっているRVリストと比較し、統合失調症に遺伝子機能異常を起こすRVの影響を測定している。
結果は明確で、コントロールと比較したとき、典型的統合失調症、重症統合失調患者さんで、遺伝子機能が損なわれるミスセンス変異の現れるオッズ比は0.9 vs 3.55、機能が変化する変異は1.3 vs 1.6と、大きな差がある。さらに、重症患者さんのほぼ半数で、ミスセンス変異か機能ロス変異が見られる一方、典型例では28%にとどまっている。
これまで症状の重さを区別せず数多くの統合失調症エクソーム解析から作成されたRVリストがあるが、その上位遺伝子変異の頻度は、逆に重症患者さんでは低い。すなわち、一般の脳形成、発達、維持に影響するRVが重傷者に見られ、典型例とは遺伝構成で大きく異なることを示している。
このような重症者で見られた遺伝子の例を見ると、
- FOXP2:この遺伝子が欠損すると、特異な構音障害が起こることがわかっている。
- WBP11:脳神経症状を伴う全身の発達異常を示す。
- DIS3L2: 神経発達障害パールマン症候群の遺伝子
などがあり、マイルドな発達障害が重症統合失調症発症に関わることがわかる。
最後に、同じような遺伝子背景で発生すると考えられている自閉症で、重症統合失調症に関わる変異がオーバーラップするかも調べているが、こちらも全く重ならない。すなわち、重症統合失調症は全く異なるメカニズムで発生する。
以上、今後遺伝子診断を早期に行って、病気のコースをしっかり調べる研究は重要になると思う。この論文で、現在でも20%の重症統合失調症は遺伝子診断できると言っているので、これにより統合失調症のみならず、私たちの精神についても理解が進むと期待したい。
一般の脳形成、発達、維持に影響するRVが重傷者に見られ、典型例とは遺伝構成で大きく異なることを示している。
Imp:
重症統合失調症の”遺伝子診断”の可能性。。