ガン細胞で細胞膜分子の糖鎖調節が大きく変化していることはよく分かっているが、これをガン特異的な治療に利用することは簡単ではないようだ。一方、ガン特異的な糖鎖の変化が、ガンに対する免疫反応を落としてしまう可能性があり、この場合は糖鎖添加を抑えることで治療効果を高めることが出来る。
今日紹介するミラノにあるサンラファエロ研究所からの論文は膵臓ガンに対するCAR-T治療開発過程で、抗原に使っているCD44ver6のガン特異的な糖鎖修飾をブロックすることで治療効果が高まることを示唆した研究で、かなり特殊なセッティングではあるが、糖鎖修飾にも目を配ることの重要性を示した研究と言える。タイトルは「Disrupting N-glycan expression on tumor cells boosts chimeric antigen receptor T cell efficacy against solid malignancies(腫瘍細胞上のN-グリカン発現を止めることで、固形ガンへのCAR-T治療効果を高めることが出来る)」だ。
Nature Medicineが選んだ昨年の医学研究トップニュースの一つが骨髄腫に対するCAR-T治療の成功で、ようやくB細胞白血病以外にもCAR-Tが拡大し始めたという期待がこもっているが、それでもいわゆる固形ガンに対する開発の歩みは遅い。
このグループは膵臓ガンなどRAS発現腫瘍で特異的に発現するCD44のスプライス型CD44ver6に対するCAR-Tの効果を高めるために、この抗原の糖鎖修飾を標的に出来ないか調べる中で、Nグリカン合成に関わる酵素を欠損させると、ガン細胞とCAR-Tとの免疫シナプスと呼ばれる、アクチン依存性のプロセス田高まり、結果CAR-Tのキラー効果が高まることを発見している。
後は、この試験管内の結果を、生体内へ移行させられるか実験を重ね、Nグリカン合成阻害剤として、2DG(2-deoxy-D-glucose:glucose/mannoseのアナログ)を静脈注射と、CAR-Tを併用することで、単独ではほとんど効果の無いCAR-Tによる効果を得ることが出来ることを示している。さらに、PD-1/PD-L1チェックポイント分子の機能を抑えることも示し、2DG投与が、療法の効果で固形ガンのCAR-T治療を高める可能性を示した。
後は、この処理がCAR-Tの疲弊を防ぐ効果があること、他の抗原にも利用できることなどを示しているが、割愛する。
これまで大きな困難が伴う固形ガンのCAR-T治療のために、小さな穴でもなんとか見つけようとする研究の一つで、2DG自体はガンに特異的に取り込まれることが知られており、可能性はある。効果が高いとは言えないが、それでも一歩ゴールに近づけるという意味で、期待したい。
1:Nグリカン合成に関わる酵素を欠損させるとガン細胞とCAR-Tとの免疫シナプスと呼ばれるアクチン依存性のプロセスが高まる。
2:結果CAR-Tのキラー効果が高まることを発見
Imp:
糖鎖・免疫シナプスに着目。