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7月20日:糖尿病にFGF(Natureオンライン版掲載論文)

2014年7月20日
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糖尿病の中に、インシュリンは分泌されても骨格筋などの組織がそれに反応しないため血糖が低下しないインシュリン抵抗性の糖尿病がある。脂肪形成に関わる核内受容体PPARγ分子がこの過程に関わることが明らかにされてから、この分子に対する標的薬が,最初我が国主導で開発され、一時次世代の糖尿薬としてもてはやされた。しかしその後様々な副作用が明らかになり、現在はほとんど使用されなくなっている。例えば武田薬品のアクトスは同社の稼ぎ頭として大きく貢献した。しかし膀胱がん誘発の危険があることを指摘され、またそれを同社が隠していたとしてルイジアナ州連邦裁判所が賠償支払いを最近命じるなど、副作用を巡って暗雲が立ちこめている。ただ、PPARγ研究をリードして来たエバンスさん達にとっては残念な結果だったに違いない。この分子を活性化する薬が間違いなくインシュリン抵抗性を改善できるなら、この分子の下流で働くよりインシュリン感受性に特異的な分子を見つけて、同じ効果を得られないか調べたのが今日紹介するソーク研究所、エバンスさん達の論文で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Endocrinization of FGF1 produces a neomorphic and potent insulin sensitizer(ホルモン化したFGF1は新しいタイプの効果の高いインシュリン感受性増強を誘導する)」だ。この研究では、FGF1分子をノックアウトすると強いインシュリン抵抗性が出ること、またFGF1分子の発現がPPARγ分子により調節されているという2つの結果から、PPARγによるインシュリン感受性上昇がFGF1によるのではないかと仮説を立て、FGF1投与でインシュリン感受性を上昇させ糖尿病を防げないか検討している。結果は予想通りで、高カロリー食により誘導した肥満マウスや、遺伝的な肥満マウス、糖尿病マウスの全てでインシュリン感受性を上昇させ、血中グルコースを低化させることに成功している。元々FGF1は様々な細胞を活性化することが知られており、副作用が心配される。ただ増殖因子として働くときはヘパラン硫酸と結合することが必要で、遺伝子工学的に造らせホルモン化したFGF1にはその作用が低いと期待される。これを確認するため、長期投与実験を行い副作用を調べているが、マウスモデルではPPARγ刺激剤などで見られた副作用は認めていないと言う結果だ。基礎研究の応用段階で転んでも、そのままあきらめなずにもう一度基礎に帰ってやり直す、絵に描いた様な研究で、臨床応用も期待できる。更にFGF1遺伝子を遺伝子工学的に短くして、増殖因子活性を弱めた分子は、より強いインシュリン感受性上昇を引き起こすことを示している。エバンスさんは核内受容体研究のリーダーとして世界を引っ張って来た大御所だが、大御所の粘りを感じる研究だった。

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