最近紹介したように、自閉症スペクトラム(ASD)では、解剖学的には脳にほとんど異常が認められないものの、介在神経の機能異常が起こり、神経抑制のバランスが変化した結果、脳波検査でγ波が上昇することなどを紹介した(https://aasj.jp/news/autism-science/18807)。 実際、興奮精神系と異なり、介在神経はいくつかの場所でまとまって作られた後、移動によって脳内に分布する。すなわち、発生を経て最終目的地に落ち着くためには複雑な過程を経る必要があり、異常が起こりやすいと考えられる。したがって、この過程を解明することは、そのままASDのみならず、てんかんや、統合失調症の理解にもつながる。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、発生過程の人間の脳標本を用いて、介在神経発生過程の解明に迫った研究で、1月28日号のScienceに掲載された。タイトルは「Nests of dividing neuroblasts sustain interneuron production for the developing human brain(増殖する神経芽細胞の集まりが発生途上の人間の脳の介在神経産生を受け持つ)」だ。
この研究の前半は、精細な組織学で、大脳基底核源基と呼ばれる脳室内に突き出した領域の中で、内側の隆起にDCX分子を発現した介在神経が増殖する特別な場所が存在し(他の基底核部位には存在しない)、そこで胎生14週から23週まで、神経芽細胞が一種のガンのような増殖集団を形成して、増殖が続くことを明らかにしている。大事なのは、興奮神経と異なり、等分裂から不等分裂の様な転換があまり見られないことで、著者らは神経の細胞同士が接着因子で凝集することが増殖に必要ではないか、またプロトカドヘリンの一つが欠損すると介在神経発生異常が起こるのも、この凝集塊の形成の問題ではないかと議論している。いずれにせよ介在神経の前駆細胞の増殖調節についてさらに研究が必要であることが分かる。
23週を過ぎると、細胞増殖の速度は低下するが、生まれるほぼ前まで増殖が続き、介在神経が脳へ供給されることが分かる。実際、増殖が止まった細胞は、集団から離れ、分化し移動が始まる。
この研究のハイライトは、この神経芽細胞凝集塊を取り出してマウスに移植しても同じような塊が形成され、マウスの中で発生が続くことの発見で、なんと移植後1年間にわたって、増殖、分化を観察できることが示されている。しかも、最終的に機能的介在神経が分化するのに、この条件で200日必要で、こうして分化した介在神経はマウスの脳ネットワークに統合されることが示されている。
結果は以上で、介在神経前駆細胞が細胞塊を形成することで増殖すること、これをマウス脳内でほぼ同じ時間スケールで再現できることなど、少なくとも発生過程のほとんどの部分を研究する方法を示した、今後人間の介在神経発生を研究する上で、重要な貢献ではないかと思う。今後、iPSなどを組みあわせることで、様々な疾患での介在神経発生異常も分かるように思う。自閉症の科学としても紹介したい論文だ。
1:介在神経前駆細胞が細胞塊を形成することで増殖する。
2:これをマウス脳内でほぼ同じ時間スケールで再現できる。
Imp:
発生を経て最終目的地に落ち着くためには複雑な過程が必要であることが明らかに。
門外漢のため理解に苦労します。