ゲノムや年代測定のみならず、現在考古学や歴史学に、様々な科学的手法が導入され、思いもかけない視点から、文化に新しい光が当たりつつある。
今日紹介するベルギー・アントワープ大学を中心とした国際グループからの論文は、まさにそんな例で、中世の英雄や騎士の物語についての本の科学的生態学を通じて、その本を読んでいたそれぞれの地域の文化を、新しい視点で眺めた論文で、2月18日号のScienceに掲載された。タイトルは「Forgotten books: The application of unseen species models to the survival of culture(忘れられた本:文化の生存に発見されない種についての生態学モデルを適用する)」だ。
例えばアーサー王と円卓の騎士などは有名な例で、最初は口伝えで伝承されてきたが、中世に入って書籍の形で伝わるようになった。当時の書籍は貴重なものだったとは言え、様々な形で消失が続き、現在は図書館や文書館、そして個人のコレクションとして残存している。当時の文化を知りたい歴史学にとっては、これからも新しい本が現れるのかは重要なことだが、どこまで探索を広げれば新しい本が現れるのかを科学的に予測することはこれまで行われてこなかった。
この研究では、生態学でサンプリングをした後、今後さらに新しい種が発見できるのかを予測する方法を用いて、現在図書館などに収集された書籍の数、多様性、地域的分布、そして書籍の状態から予測しようとした研究で、Scienceレベルとして高いかどうかは疑問だが、着想は面白い論文だ。
生態学的モデリングや統計学は苦手な方なので、方法はすっ飛ばして結論を紹介すると、次のようになった。
1)思いのほか残存率が高く、まだ新しい本や書類が発見される可能性は高いこと。
2)ただ、残存率の地域差は大きく、最も低いのは英語圏の本で、最も残存率の高いのはドイツ語圏の本で、その差は2倍を超えている。その中間にオランダ語圏やフランス語圏が入っている。(ドイツが書かれたものを大事にするのはよく分かる。一方、英国の憲法が不文憲法であるというのもこの結果を見ると腑に落ちる)
3)アイルランドやアイスランドでは、文書の分布が極めて均一で、本が地域隅々にまで届いていたことを示す。この2カ国を除くと、他の国では分布の均一性は大きく低下している。
面白いと思ったのはこのぐらいだが、新しい本の発見可能性を計算すると言うより、世俗の本をサンプリングして、その生態学を知ることで、各国の文化が浮き上がることの方が面白いと思った。
世俗の本をサンプリングして、その生態学を知ることで、各国の文化が浮き上がることの方が面白い。
英国の憲法が不文憲法であるというのもこの結果を見ると腑に落ちる。
Imp:
確かに面白いです。
文字記録に対する価値観の違いが浮き彫りに。