エーザイの抗アルツハイマー病薬、アリセプトは、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤で、アセチルコリン(Ach)の分解を抑えることで、Achの量を相対的に上昇させる薬剤だ。
今日紹介するマサチューセッツ総合病院からの論文はマウスにアリセプトを投与したとき、白血球減少が見られるという観察から始め、これがB細胞によるアセチルコリン分泌を介している可能性を示した研究で、3月28日Nature Immunologyにオンライン掲載された。意外性で惹きつけるタイトルは「B lymphocyte-derived acetylcholine limits steady-state and emergency hematopoiesis(B細胞由来のアセチルコリンが定常状態及び緊急事態の造血を制限する)」だ。
タイトルで驚いたが、著者欄を見るとDavid ScaddenやPeter Libbyといった大御所が加わっておりさらに驚く。しかし研究自体はアリセプトの効果の原因を探るといった感じで、オーソドックスな研究で、内容からScaddenやLibbyが加わるのもよくわかる。
アセチルコリンの骨髄への影響を知るため、まずアセチルコリンを合成する酵素を持つ骨髄細胞を探すと、ほぼ全てがB細胞集団であることがわかった。
次は、本当にB細胞のアセチルコリンが造血に関わるのか調べるため、B細胞特異的に合成酵素をノックアウトすると、期待通りノックアウトマウスではB細胞のアセチルコリン分泌量が低下するとともに、骨髄造血、特に白血球造血が上昇している。
次にAch受容体を発現する細胞を探ると、ストローマ細胞集団で発現が見られ、またAch受容体がノックアウトされると、Ach合成酵素ノックアウトと同じ効果がある。すなわち、B細胞のAchがストローマ細胞に作用して増血を調節していることになるが、このメカニズムは完全に明らかにできていない。
例えばAchのB細胞でノックアウトしたマウスでは、骨髄造血に必要なCxcl12が低下していることを示しているが、Cxcl12は未熟幹細胞の維持に必須であると考えると、Achで低下しているとすると、もっと未熟幹細胞が低下してもいいように思うが、そうではない。ただ、この結果か、少し分化した顆粒球系の幹細胞が増加している。とすると、AchはCxcl12発現を上昇させて、未熟幹細胞を維持する役割があるのかもしれない。その場合、老化に伴う造血系の変化をアリセプトが改善する可能性すらある。
そこで、メカニズムを追求するのはやめて、Achにより白血球のリクルートが調整されるという結果を受けて、動脈硬化での炎症がB細胞のAchで影響されるか、ノックアウトマウスを用いて調べている。Libbyたちがこれまで示しているように、Achが抑えられ、白血球が増加していると動脈硬化巣へのマクロファージや顆粒球の浸潤が高まることが確認されている。また、心筋梗塞巣への血球の浸潤を見ても同じで、白血球浸潤が高まる結果マウスの死亡率が高まる。
最後に、これが人間にも当てはまるか、心筋梗塞を起こした時にアリセプトを服用していた患者さん(Achが高い)を集め、服用していなかった群と比較して、血中の白血球数の上昇が少ないことを示し、Achが血中の白血球上昇を抑えるのは人間でも当てはまると結論している。
少し尻切れトンボの感が強い論文だったが、しかしB細胞がアセチルコリンの供給源とはともかく驚く。
人間にも当てはまるか、心筋梗塞を起こした時にアリセプトを服用していた患者さん(Achが高い)を集め、服用していなかった群と比較して、血中の白血球数の上昇が少ないことを示し、Achが血中の白血球上昇を抑えるのは人間でも当てはまると結論している。
Imp:
B細胞もAchを合成分泌しているようで。。。驚きです。
昔勉強した、“非神経性コリン作動系”を思い出しました。