私たちは哺乳動物の仲間なのに、古生物学というとどうしても恐竜に人気が集まる。まあ化石も多いし、大きいので仕方ないかと思うが、胎盤を持つ哺乳動物は白亜紀に誕生しており、ティラノザウルスなど恐竜の王国で、細々と暮らしていたのだろう。この頃については全く勉強不足で、この厳しい環境を生き残るために、胎生というシステムと、脳を発達させたのではと思っていた。
しかし、今日紹介するエジンバラ大学からの論文は、新しく発見された化石も含めて、頭蓋骨の精密なCT解析を行うことで、中生代から新生代までの脳の発達を調べ、脳の発達が起こったのは哺乳動物が地球上で繁栄し始めた後である可能性を示した研究で、4月1日号のScienceに掲載された。タイトルは「Brawn before brains in placental mammals after the end-Cretaceous extinction(白亜紀の種絶滅の後の哺乳動物進化は筋肉から始まって脳の進化は後に続いた)」だ。
頭蓋のCT画像と全体の骨格などから、脳の相対的大きさを示すencephalization quotient(EQ)とともに、嗅球、新皮質、及び三叉神経の出るあたりの後部脳を頭蓋から推定し、脳各部の進化を別々に調べている。
結論は、哺乳動物の脳は最初から増大する方向で進化したわけではなく、始新世になって初めて増大が始まった、となる。もう少し詳しく述べると以下のようになる。
1)中生代から暁新世にかけて、すなわち8−7千万前までは、ボディーサイズは増加するが、逆にEQは低下をしていく。すなわち、何らかのきっかけでニッチが成立したとき、まずボディーサイズの増大で対応する。
2)ところが、6600万年前、彗星衝突による地球上の種の絶滅が起こり、これを生き延びた哺乳類は、ボディーサイズも増大させるが、それを上回る速度で脳の大きさを増大させる。
3)脳の各部のサイズの変化を調べると、嗅球は絶滅前から低下傾向にある。一方、他の部分は絶滅以降急速に増大し始めている。
4)面白いのはPetrosal lobuleで、身体の大きさ増大し始めたとき、逆に急速に低下し、その後大絶滅を経て増加に転じている。 結果は以上だが、要するに身体の各部の進化は、独立に進んでいくという話になるが、今後各部位の変化と、環境側の変化を詳しく対応させていくことが重要になるだろう。いずれにせよ、大絶滅のあと、特に脳が発達したことは、決定的な環境変化を生き延びるのに脳システムは極めて有効に機能したことを示している。示された系統樹を見ると、哺乳動物のほぼ全ての生物種が大絶滅を経験し、その後急速な多様性を獲得したようなので、このあたりの哺乳動物進化を調べると、恐竜より面白いドラマが明らかになるような気がする
示された系統樹を見ると、哺乳動物のほぼ全ての生物種が大絶滅を経験し、その後急速な多様性を獲得したようだ。
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大絶滅が多様性獲得への引き金になった!?