自己免疫病の中でも強皮症は最も研究が遅れている病気ではないだろうか。文字通り全身の皮膚でコラーゲンが沈着し固くなるのが主症状だが、レイノー現象と呼ばれる血管病変が見られること、肺や腎臓など全身の線維化が見られる病気で、現在では強皮症(scleroderma)の代わりに、全身性強皮症が正式名になっている。
最終的には線維芽細胞の異常と、マトリックスの沈着が起こるのだが、その引き金になるおそらく自己免疫反応についてはよくわかっていない。基本的には、おそらく血管内皮の異常な活性化が引き金になって起こる細胞浸潤と、血小板凝集により、炎症性サイトカインが分泌され、線維芽細胞の活性化が起こると考えられてきた。
今日紹介するイスラエルワイズマン研究所からの論文は、この難しい病気に、single cell RNAseq を使って解析を試みた研究で44月14日号 Cell に掲載された。タイトルは「LGR5 expressing skin fibroblasts define a major cellular hub perturbed in scleroderma ( LGR5発現線維芽細胞は強皮症で傷害される主要な細胞のハブだ)」。
要するに患者さんの皮膚バイオプシーから細胞を取り出し、single cell RNAseq(scRNAseq )で、存在する細胞を徹底的に分画し、性状と比べた研究で、詳しい解析は出来ているのだが、細胞レベルの現象論で止まっているため、メカニズムには切り込めていない。ただ見えてきた現象から、線維化の起こり方に関して、ユニークな面白いアイデアが示されている。
まず皮膚に存在する免疫細胞だが、正常皮膚と比べるとインターフェロン γ 分泌T細胞が上昇、NK細胞が上昇などが観察でき、また抗 RNA ポリメラーゼ自己抗体の量などとも相関している。ただ、この研究では免疫炎症反応のさらに下流、線維芽細胞に焦点を当てて解析を行い、免疫系の引き金については解析していない。
これまで線維化組織を見る場合、線維芽細胞については myofibroblast と呼ばれる活性化型の増加がもっぱら注目されてきた。確かに相対的に myofibroblast の増加が観察されているのだが、この研究が着目したのは、この研究で初めて存在が認識された LGR5 陽性の線維芽細胞集団だ。
LGR5は、幹細胞領域では最も有名な分子で、腸管を始め上皮臓器の幹細胞特異的に発現し、Wntシグナルを高めている。この意味で、LGR5が線維芽細胞に発現していること自体が驚きだが、この研究のハイライトは強皮症皮膚でこのLGR5細胞の数が著しく低下しているという発見だ。
線維化というと、我々は線維芽細胞増殖とすぐに結びつけるのだが、逆に数が減っている細胞に注目したのがこの研究のミソだ。そして、遺伝子発現、エピジェネティックスなど様々な方法を重ね合わせて、このLGR5陽性細胞が強皮症では、形態的には周りに伸ばした細胞突起が減少し、さらに遺伝子発現でも細胞外マトリックスの合成が上昇し、それを分解する酵素の低下がおこる、リプログラミングが進行していることを明らかにしている。
詳細を省いて紹介したが、要するにLGR5陽性細胞は、多くの皮膚細胞と相互作用して正常皮膚を健康に保つための調節細胞として機能し、異常な線維化を防いでいるが、この細胞が自己免疫反応の結果、急速に減少し、線維化を抑えられなくなるのが強皮症ということになる。
Regulatory fibroblastとも言える面白いアイデアだが、これが正しいかどうかは、実験的に確かめる必要がある。ただ、正しいとすると、新しい介入方法が生まれると期待できる。
LGR5陽性細胞
1:多くの皮膚細胞と相互作用して正常皮膚を健康に保つための調節細胞として機能する。
2:異常な線維化を防いでおり、この細胞が自己免疫反応で急速に減少し線維化を抑えられなくなるのが強皮症だ。
Imp:
強皮症病態生理に“新たな光”。
幹細胞マーカーLGR5陽性細胞の減少だったとは!!