アミロイドβ(Aβ)除去療法の治験結果が大きく期待を下回ったことから Aβ の役割を疑う声を聞くが、この考えはおそらく不勉強か偏った考えに基づく意見で、様々な状況から多くのアルツハイマー病(AD)で Aβ 蓄積が関与していることは間違いない。最も信じられている仮説は、Aβ 蓄積により神経の過興奮が誘導され、それが神経内の Tau を変化させて、Tau 蓄積と伝搬が起こるという考えで、これが正しいとすると除去療法はこの段階を狙って治療することが重要になる。
しかしこの仮説も、Aβ の蓄積場所と Tau の蓄積場所の違いなど、まだまだ説明がつかない点が多くあった。今日紹介する韓国・高麗大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校が共同で発表した論文では、様々なステージの AD について行った Aβ と Tau の蓄積を調べる PET 画像を詳細に解析することで、AD 伸展過程を解析、Aβ と Tau との相互作用の仕方について、明確な仮説を提案した論文で、4月9日 Neuron にオンライン掲載された。タイトルは「Regional Ab-tau interactions promote onset and acceleration of Alzheimer’s disease tau spreading(局所的な Aβ-Tau 相互作用がアルツハイマー病とTau の伝搬開始と伸展を誘導する)」だ。
これまでの研究で AD 症状の発展には Tau の細胞内蓄積と脳各部への神経細胞間伝搬による拡大が関わることが広く認められている。そこで、この研究ではまず様々なステージの数多くの患者さんの Tau の蓄積様態を調べ、Tau の伝搬過程を詳しく解析している。
この結果、これまで示されていたように Tau の蓄積は嗅内野から始まること、そして嗅内野から下側頭回に伝搬が進んだ後、急速に脳全体に広がることを明らかにしている。そして、テンソル MRI 法から特定された脳内領域間の結合を重ね合わせて、下側頭回がまさにネットワークのハブの働きをしていることを明らかにした。
次は、このパターンに Aβ 蓄積が手を貸しているかが問題になる。そのため、Aβ を調べる PET を用いてその蓄積を画像化し、Tau の画像と重ねると、Aβ の蓄積が下側頭回で始まるのに呼応して嗅内野から Tau が下側頭回へと伝播し、これをハブとして脳全体に広がることがわかった。すなわち、Aβ は、神経投射の端末にあろうと、神経細胞体にあろうと、神経細胞に働いて Tau の沈殿、伝搬を誘導する。その結果、最初嗅内野で Tau が蓄積を始めた後で、下側頭回に Aβ 蓄積が始まると、これに投射していた神経を伝って Tau が下側頭回へと広がり、その後下側頭回に蓄積した Aβ、あるいは下側頭回から投射した先で蓄積した Aβ の作用を受けて、Tau 蓄積が拡大するというシナリオが提案された。
結果は以上で、いくつかの脳画像を、多くの患者さんで、しかもステージを追って、場合によっては同じ人について病気の伸展に合わせて集めることで、仮説とはいえ、明確で説得力のあるシナリオができあがったといえる。
これを検証するのは簡単ではないが、幸い Aβ 除去のための手段が存在する。このシナリオが正しいとすると、嗅内野の Tau が下側頭回に広がるのを止めることが最も重要で、Tau ペットで嗅内野にシグナルが認められ、Aβ の蓄積が進んでない時点で、抗体など Aβ 除去剤を使ってみて、病気の進行や Tau の下側頭回への伸展が止まるかどうかを調べることが、仮説の検証になるように思える。是非新しいコホートでチャレンジしてほしいし、今からでも遅くないと思う。